心の中で決意したものの、いざとなるとチキンになってしまうのが欠点だ。
正直ディオと顔を合わせたくないが、時折彼がジョージさんの寝室へ出向いてないか、遠くで見張る。
ジョナサンと言い合ってから警戒しているように見える。
刻一刻と時間が過ぎていく一方、ジョナサンが帰ってくる様子はない。
恐れているのか、時間が経つのがいつもより遅く感じてしまう。
それが災いしてか、当の本人とバッタリ出会ってしまった。
「おっと・・・すまない。大丈夫かい?」
毒殺疑惑が発覚する以前から、ディオと会うのを極力避けてきた。原因はあの『ノート』だ。
何故かジョナサンの似顔絵もどきだけが破られていた。
それをやった犯人は恐らくディオだが理由はわからない。
訳を知った所で彼に対する感情は変わらないと思うが・・・それよりも落としてしまった本を拾わなきゃ。
本を拾い終えたと思ったその時、突然ディオに手をつかまれた。
「何故ぼくを避けるんだ?ぼくが君に何かしでかしたかい?」
普段と違い、優しさを感じない。冷静さを失っている口調は強く握っているこの腕からも感じられる。
今までと違う態度に普通なら誰もが戸惑うだろう。だが今の彼を見て不思議と違和感を覚えなかった。
だけど流石に力入れすぎだ!!男の力は女より断然上なんだぞ!!悔しいけど・・・!!
私が痛みに口から息を漏らすと、我に返ったディオの握る力が弱まった。
「ジョジョは一人で食屍鬼街に行ったらしい。」
先程、ジョナサンを乗せた馬車の御者さんがディオにそう伝えたようだ。
ジョナサンは言わなかったが、ロンドンで一番危険な場所だとディオは口にする。
「恐らく無事では済まないだろうな。」
私が不安気な表情をしているのに関わらず、更にそれを煽る発言をした。
一瞬、悪い笑みを浮かべたのは気のせいではなかった。
当然、怒りを覚える行為に何もせずにいられない。
―――が、あえてここは怒りを抑えた。今するべきことはただ一つ。
≪きっとすぐ帰って来るから、大丈夫だよ。≫
そう筆記のメモを見せた上でにっこりと笑ってみせた。
その場から立ち去る際、チラッと彼を見ると面喰らったような、ちょっと間抜けた表情になっていた。
私は何もなかったかのように背向き、完全に視線が外れたところで思いっきりガッツポーズしてみせる。
何か悪女っぽいけど、いい気味だぜ!
***
夜。
ふらり、とどこかへ外出したディオの表情はあまり良くなかったらしい。
もしかして私がやったことと関係しているんだろうか。
報復か何かされたりするのは嫌だが、しばらく顔を見ずにいられるのは内心ホッとした。
けれどジョージさんの症状は未だ良くならない。気が付けば彼の寝室の前に立っていた。
「(どうしよう・・・今更何て声をかけたらいいか・・・)」
いや、『声』かけれないんだって!!
「・・・誰かいるのかね?」
一人芝居していたせいで音を立ててしまった。
このまま黙って去るのも失礼だし、ううっ・・・ええい!もう行ってやる!!(ヤケクソ)
「ああ、。こんな夜遅くに・・・眠れないのかい?」
≪お恥ずかしながら・・・。≫
「そうか。・・・君、悪いが少し席を外してくれないか?」
「わかりました。何かありましたらすぐおっしゃって下さい。」
ジョージさんのおかげで口実ができたが、まさか二人っきりにさせられるとは・・・!(別に変な意味はない)
彼だけと一緒にいるのは初めて顔を合わせた以来だ。だからなのか変に緊張してしまう。
「こっちに来なさい。」と手招きされても体が硬い。まるでロボットみたいだと思った。
≪お体の具合はどうですか?≫
「うん、先程ちょうど『せき』が治まったところだ。君はその格好だけで寒くはないのかい?」
≪大丈夫です。≫
私は今、いつもの制服―――ブレザーも一緒に羽織っているが、
まだ肌寒いので借りているセーターを中に着込んでいる。
最初はフリフリのレースがあしらっているドレスを勧められたが、
流石にそれを着る度胸がなかったのでやんわり断った。(確かにこの制服に保温性はないが・・・)
・・・また会話が止まってしまった。これじゃあいつもと変わらないじゃないかッ!
「・・・君がここに来てもう半年が過ぎた。辛くはないかい・・・?」
「(・・・?)」
「君が言ってた元の時代・・・いや、そもそも場所が異なっていたんだったね。
この環境に慣れるのに苦労しただろう?」
「・・・―――!」
「最初はわたしも戸惑ったが、同じように会話ができるようになったね。よくがんばった。」
『会話』―――と言っても所詮、私だけ文で伝えるしかないのだが、
最初のようにただ単語だけを無理やり繋ぎ留める言葉ではなくなった。
早口で聞き取れなかった言葉も理解できる。
彼らにとって当たり前のことだが、その中にいるジョージさんは私の成長を認めてくれた。
すると「ベッドに座って。」と言われ、不思議に思いつつ言われた通りに動く。
しばらくすると胸元に何かが当たった。
「(これは・・・?)」
以前持っていたものと比べサイズが少し大きめで、シンプルな文字盤の『懐中時計』だが、
裏側を見るとジョースター家の家紋が刻まれている。
「君が大事にしていた時計が壊れていたからね、勝手ですまないが修理に出させてもらったよ。」
「(えっ・・・!?)」
「代わり・・・にはなりきれないが、私の気持ちとして受け取ってくれないか?」
・・・こんなサプライズがそんな急にあるものなのか。
だが今首にかけられてあるこの時計の『重み』と『今の時刻』を指しているのは確かにそれを証明している。
だがこんな高価なものを・・・代用として易々と受け取れない。
「少し早いがクリスマスプレゼントを贈らせてくれないかな?恐らく、私にはもう・・・。」
「(・・・?)」
「いや、何でもないよ。それとも、気に入らなかったかな・・・?」
「(そんなまさか・・・!!)」
こんな素敵な贈り物―――誰が喜ばないと言うんだ!
・・・これは大事にしなくちゃ!
≪クリスマスの時は楽しみにして下さいね!≫
「おやおや、そんな早く打ち明けていいのかい?」
自然と笑顔になり、気がつけば長く話し込んでしまったが楽しかった時間はあっという間だった。
少しだけ・・・ジョージさんとの距離が短くなったような気がした。