・・・・・・・・・体が冷たい。体が、動かない・・・。
そして、ここは・・・?私はどうして、怪我をしているんだ?
「っ!・・・・・・ッ!!・・・。」
まずいな・・・声も出ないんなんて。身体が寒いと訴えているのに、何故痛感がない?
ようやく頭を動かすことができた私は、それを見て激しく後悔した。
お腹に、穴があいている―――。
何故?何故、何故!?
頭の中がごちゃごちゃと訳のわからない状態で、私はすすり泣いた。
涙はちゃんと出ているのに、何で声が出ないの?私は一体、何者なんだ!?
三月ウサギのように
気が狂っている
「後はもう大丈夫です。このまま安静にさせて―――」
「しかし困ったな。身分証を持っていないんじゃあ、すぐ連絡できないぞ。」
「大丈夫よパパ。後は私に・・・―――。」
・・・・・・・・・不思議だ。さっきまで氷水に浸っていたように寒かったのに、今は温かい。
しかも、体が軽い。
電子音を目覚ましに、私は瞼を開く。
こうやって、ちゃんと視界にものを映すのは今回が初めてかもしれない。
「目が覚めたのね。大丈夫・・・かしら?」
女性の声がした方へ、ゆっくり首を動かす。
若干ウェーブの掛かっている黒いロングヘアー。美人であるが、どこか少し気が強そうだ。
けれど、今私を見るその瞳は、とても優しそうに緩んでいた。
「あなた・・・河原の近くで倒れていたのよ。
たまたまわたしが通らなかったら・・・・・・きっと手遅れだったわ。」
そうか・・・彼女が報せてくれたのか。お礼が言いたいのに声が出ない自分が恨めしい。
私を見て覚った彼女は、「声が、出ないのね・・・?」と直感で当てた。
すぐにペンと紙を用意してくれた事も含め、感謝の言葉を綴った。
≪本当に、本当にありがとう御座います。貴女には、言葉だけでは感謝しきれない。≫
「よして。わたしは救急車を呼んだだけよ?ねえ・・・名前は何て、言うの?」
・・・・・・・・・名前?
私の名前は・・・・・・・・・・・・・・・何だ?
「もしかして・・・・・・・・・記憶が・・・。」
何を言いたいのか理解できた私は、じわりと瞳の奥が熱くなった。
思わずシーツで目元を拭おうとしたが、それをきめ細かい肌の指が制するように絡んだ。
「・・・ごめんなさい。あなたを傷つけるつもりじゃなかったの。
でも、あたしの軽んじた発言であなたを悲しませた。本当にごめんなさい。」
彼女は、女神かその使いなんだろうか。
お互い、知り合って間もないはずなのに、彼女は私の為に悲しむなんて!
なんと心優しい女性なんだろうか!
「そうだ。これ・・・預かっていたものなの。」
そう言って私の手元に置かれたのは、シンプルな形の懐中時計。どうやら私の所有物らしい。
それを手にとって観察していると、後ろ側に家紋と何かが刻まれていた。
「(・・・・・・?)」
私の名前―――。
何故か、それだけは確信が持てた。きっと私のために贈ってくれた大切な物なんだ。
そう思うと、自然に頬が緩んだ。
すると、彼女が横から私の両手を取って、「ねえ、あたしの家に・・・来ない?」
どこか、嫉妬の炎を宿った瞳でそう言った。
私はまだ、腹の傷が完全になくなって事に気づいていない。