一人ずつ簡単な自己紹介を済まし、今後の授業や行事説明が終わり、一日目を終えた。 それから数週間後―――休み時間以外、教室にポツンと一人で席に座るのが目立つ。 二日目まで何人か声をかけてくれたが、今は誰もいない。 此方から接しようとしても、筆談という壁に当たって会話がうまく続かない。 このまま友達ができずに卒業しちゃうのかな・・・。 「悲しむ必要なんてないわ。あたしがいるじゃない。」 弱音を吐く私に対し、由花子さんは優しい口調で慰めてくれた。 微笑んでみせた彼女のその表情からうっすらと狂気を覚えてしまったのは、 私の弱い心のせいなのかもしれない・・・。 「(図書室に出入りするようになったのも、あれ(・・)から始まったんだ・・・)」 ずっと教室にいては耐え切れず、昼休みの合間をぬって読書に集中していた。 時折、廊下や校庭側の窓から賑やかな話し声が飛び交うが、ここは比較的に静かでいい。 不安で押しつぶされそうになる孤独感から解放された気分だ。 誰の目にも気にせず、学校で唯一安らげる場所――― 「あっれぇ〜!?ねぇぞ、オイ。もう誰かが借りちまったのかよ・・・?」 真後ろから大袈裟にあたふたする様子を窺える声が上がる。 情けない声色から、何だか涙目になっているように思えた。 あれ、この声あの時(・・・)の・・・・・・。 振り向くと、その声の主であろう人物が未だに植物関連スペース周辺をウロウロしている。 キチッと決まったリーゼントに学ランがよく似合う青年だった。(背が高い!) さっきから「ない、ない!」と指摘する貸し借りの空白に見覚えがある。 今ちょうど私が読んでいるその本(・・・)だ。 「(困ってるみたいだし・・・)」 けれど、彼をどう振り向かせよう・・・? 青年の大きな背中に足が竦んでしまって肩を触れる勇気が湧いて来ない。 本を渡せば済む話なのに・・・!目頭が熱くなる私をよそに、突然その人が此方に振り向いた。 かなり驚いた様子で大きく後ろへ退いた。(反射的とはいえ何だか辛い・・・) 「うぉおおおっと・・・・・・すんませんッ!」 見た目に圧されてたけど、彼の苦笑い可愛い・・・ってそうじゃない! ええい、こうなったらヤケだ! 「ん?まだ何か?・・・え、あ、これ・・・!おれが探してた・・・あ、ちょっと!」 本を押し付けると私は逃げるように図書室を出た。早歩きのまま自然と教室の方へ向かう。 私・・・一体何をした? *** 下校途中、由花子さんは突然「先に帰ってて!」そう言うと家とは反対方向へ向かった。 誰かを見つけたような顔をしていたけど、あんな由花子さん初めてだ。 「(でも一人で帰る、か・・・・・・)」 寂しい気持ちが一層に強まる。家に帰っても今は一人。溜息がつくばかりだ。 気が付けば山岸家でなく、バスロータリーのある大広間に来ていた。 帰宅時間帯だからか、同じ学校の制服姿の生徒を何人か見かける。 こっちに来ても何もすることないのに私、何やってんだろ・・・・・・もう帰ろ。 「―――?」 私のこと・・・・・・だよね?でも、この声は・・・・・・?とても久々(・・)に聞くような―――。 小さな噴水を挟んだ向こう側に背の高い男性がいた。防止にロングコート。 全身白で際立っている。顔つきといい、瞳も誰かに似ている。誰に・・・・・・? 「てめー・・・・・・11年も一体何してた?その恰好は?何故変わっていない(・・・・・・・・・)!?」 「(えっ、えっ、えっ!?何!?)」 「ちょ、承太郎さん!何やってんスか、あんた!」 両肩を掴まれて身動き取れない私にとって救いの声がかかった。 ―――あっ! 「(昼休みの・・・!)」 「あんたは本を貸してくれた・・・!」 「・・・仗助も(・)会ってるのか?」 「同じ学校のもんスよ!事情は知らねーっスけどちょっと乱暴すぎやしねえか?」 「おれは何もしちゃいねえ・・・・・・勘違いしてるみたいだが彼女は―――」 ≪貴方は誰なんですか?私に何の用で?≫ 味方(多分)がいて心に余裕ができたのか、私は躊躇わずスケッチブックを広げて見せた。 すると、白い男はとても驚いた様子で私を凝視した。彼の眼力で思わずたじろぐ。 「・・・・・・それは何の冗談だ?」 ≪冗談じゃないです!私は何も知らない!どうして私の名前を知ってるの?≫ 「・・・・・・いくらてめーの言葉でも事によればおれは・・・・・・」 「ちょっとちょっと承太郎さん!」 青年は両手を忙しなく左右に広げて私の前に立った。 「一体どうしたんだよ?その人、スタンド使いだっていうのか?」 「ああ、そうだ。」 「えっ!?」 2人して何の会話をしているんだ?・・・・・・スタンド? 「今から証拠を見せてやる。スタープラチナ!」 「・・・・・・っ!?」 白い男が何かの単語を叫んだ。 凄味のある声に体を強張らせた同時に強い風が私の肌を通過した後、 バランスを崩して尻餅ついた。一体何なのか分からず、私はキョロキョロと首を動かす。 男は信じられないといった表情だった。 「・・・・・・こいつは厄介なことになったな・・・・・・。」 「ほら!承太郎さんのスタンドの拳があの人の顔面スレスレまで来たのに何もなかったっスよ!  これでハッキリした!」 「ああ、そうだな・・・・・・。」 「あの、ホントすんません。人違いで―――」 「お前は正真正銘、おれの戦友だ。その時計が何よりの証拠だ。」 彼が指すのは、さっき尻餅ついた反動で落としてしまった懐中時計。 その裏側には、『JOESTER』という文字と家紋マークが刻まれていた。