突然私に声をかけた白いコートの男は私を知っているようだ。
けれど肝心な私は記憶を思い出せない。
承太郎さんと呼ばれる男は「やれやれだぜ。」と小さく呟くと、
「話しがしたい。ついて来てくれ。」と彼の泊まる杜王グランドホテルに向けて顎を使う。
この時、さっさと家へ帰ってしまえばいいと誰もが思うのだろうが、
彼が嘘をつくような人には見えなかったし、何より自分が何者なのか知りたい。
(ごめんね、由花子さん・・・)
「さっき聞いたと思うが、おれは空条承太郎。さっきは手荒なマネして悪かった」
その辺に座ってくれと促され、カバンを抱えながらゆっくり腰を下ろした。
向かい側の斜めには先程私達の間に立ってくれたリーゼント君がいる。
空条さんが淹れてくれたコーヒーが目の前に置かれる。「さて・・・」
「、お前が知っていることを教えてほしい」
知っていること?それは私のこと、だよね・・・?
ええと・・・・・・
≪一月頃、川に流されてましたが山岸さんが助けてくれて、
今その方の家でお世話になってます。
学校に入学する以前、弓矢を持った男に襲われて―――≫
「何かされたのか?」
≪いえ、何も。そのまま姿を消して以来、その男に遭っていません。
ケガもないです≫
後は特にないですと付け加えた。
弓矢の単語に何故リーゼント君まで驚いた顔をしていたが、
何もないと聞くと安堵の表情を浮かべた。(身を乗り出した時はちょっと怖かったけど)
「山岸由花子・・・・・・お前のクラスにいるか?」
「いないっス。名前も初めて聞いたんで・・・」
何でこの話に由花子さんが出て来るんだろ?彼女は関係ないのに・・・。
「、今のお前に言っても訳のわからん話だろうが聞いてくれ。
君は・・・・・・『スタンド』という能力を持っている。
記憶を失う以前までは、おれ達と同様にそれぞれ個人が持つ力を使って戦って来た。
11年前・・・・・・DIOを倒す旅にお前も同行していた!」
「(スタンド・・・・・・DI、O・・・・・・?)」
「エジプトでおれはDIOを倒し、川に落ちたお前を捜し続けたが見つからなかった・・・。
この10年も間に何があってそのままの姿でいたのか・・・・・・!」
「じょ、承太郎さん・・・」
「おれの推測だが、お前があの時、川に落ちてから既に、今の時代に来たんだとすれば、
今まで年も変わらず時代を転々としていたのも合点がいく。
だがそうなった原因はわからねえ・・・・・・当時のお前もそう言っていた」
は・・・話が膨大すぎる・・・!
時代を転々しているって何のRPGだ!?
「勝手に話を進めてすまない・・・・・・ここまで聞いて思い当たることはないか?」
≪―――いいえ、何も≫
***
がそろそろ帰らなければと手をあげた所で一旦話は終わる。
その居候先まで送ると言ったが、≪大丈夫です。≫とキッパリ断られた。
部屋から出て行くのを見届け、今思っていることについて仗助に聞いてみた。
「さっきの話、お前はどう思う?」
「何がっスか?」
「が筆談していたこと全部だ。あいつには未だ分からないことが多すぎる。
記憶喪失といい、現実味のない証言ばかりだ」
「・・・・・・おれは、あの人がウソついているようには見えねえっス。
今日初めて会って間もねーけど、悪いヤツとは思えねーし・・・。
承太郎さんとどんな関係か知らないけど、その、ダチなら・・・・・・
その人の言葉を信じてやるのが本当のダチじゃあないんスか?」
仗助の思わぬ返事に、おれは言葉を発せなかった。
帰宅していった仗助を後に、椅子に深く座りこんだ。
正面にずっとテーブルの上に放置されているコーヒーは、
まだ一回も口にしていなかった。
「信頼してるから信じたくねえんだ・・・・・・。」
先程のやり取りの中で、に≪空条さん≫と呼ばれたのを思い出す。
おれだけではなく、じじいや花京院達と旅して来たその記憶も、全て覚えていないのか?
手前に置いてある自分のコーヒーで落ち着かせるため一口喉を潤したが、
不味くて全部飲み干すことはなかった。
***
昨夜はあの人に呼び止められて大分経っていたが、
私が帰宅した時には由花子さんは勿論いて、その親御さんにも怒られた。
こんな遅くまでいたら以前のように遭ってしまったら手遅れになる!と。
以前というのは私に矢を放った男のことだ。(最近そのような噂はないのだけれど)
次は気を付けますと約束した所で、いつもの生活スタイルに戻った。
「(そういえば、あの仗助って人に・・・まだお礼言ってないや・・・)」
「あっ!あの・・・!さん!・・・ですよね?」
「(えっ・・・!?)」
噂をすれば何とやらで・・・。けれど再会するの早いな!
走って来たのか、リーゼントが若干歪んでいるように見える。
「(えっと・・・・・・何か用があるのかな・・・ってスケッチブック!)」
「えっと・・・これといって用はないんスけど、さんの姿が見えたんでつい・・・」
照れ隠しからか、頬をかく仕草を含め、彼がとても可愛く思えてしまう。
「さん、どのクラス?」
≪3-Aだよ。≫
「えっ!二つ上っスか!?あれ?おれ、タメ語・・・・・・」
≪気にしてないから大丈夫だよ。≫
「そうはいかないっス!先輩に本を貸してくれたそのお礼をまだ言ってないのに・・・」
あ・・・・・・私と同じだ。
思わず、くすっと笑うと仗助くんは不思議そうに首を傾げる。
「おれ、何か変なこと言いました?」
≪ううん。私と同じこと考えていたんだなーって。ちょっと、嬉しかった≫
そう筆記で伝えると、彼の頬がポッとピンク色に染まった。
まずいことでも言っちゃったかな?
そのせいか、お互いに何も語らず、視線を彷徨わせ気まずい空気になる。
そんな中、仗助くんがボソボソと何かを呟く。私はそれに耳を傾ける。「えっと・・・」
「昨日のことなんスけど・・・あの、ホント気を悪くさせてたらすいません!
そんな・・・複雑な現状でいたなんて知らなくて・・・・・・」
≪初めて会ったのだから、しょうがない。でも、どうして君が謝る必要があるの?≫
そう聞き返すと仗助くんはぐっと言葉を詰まらせた。
「ほんの数分程度でしたけど、ずっと一緒にいたのにおれは、
何もしてあげられなくて・・・見ていただけだった。それで、そのォ〜・・・」
≪もういいよ。君の気持ち、ちゃんと伝わったから。
あと、私を庇ってくれてありがとう≫
やっと言えた・・・。『声』の代わりでしかない、たった数行の文章になってしまうけれど。
≪改めまして、です≫
「え、あっ・・・ひ、東方仗助っス!えっと、先輩?」
≪先輩が言い難かったらそのままで構わないよ?
できれば堅苦しいのなしで仲良くなりたいな≫
「!!・・・オッス!!」
年もクラスも違うけれど、やっと友達と呼べる人ができて、今はとても幸せだ。
2015.03.04