一夜明けてついにジョナサンが帰って来た。負傷している部分があるが元気で何よりだ。
「解毒剤を手に入れたよ。」―――それが何を意味するのか、ここにいる人達にとって大きな衝撃だった。
特に一番ショックを受けているのはジョージさんだ。本当の息子同然の愛を注いだのだから。
「、何か変わったことなかったかい?」
≪昨日からディオが帰って来てないよ。≫
「そうか・・・。」
しばらくしてから警察がやって来て、ジョナサンは何か話し合いを始めた。
邪魔しちゃいけない、と邸の中をウロウロしていると、彼といた金髪の男と目が合った。
とりあえずお辞儀してみた。
「もしかしてあんたが・・・って子かい?」
「何故名前を?」首を傾げつつ、彼の問いに頷いた。
「おれはスピードワゴン。ちょいと訳あってジョースターさんについて来たんだ。」
ご丁寧にもジョナサンとの出会いから、ここまで至るまでの経緯?を話してくれた。
この息詰まった空気の中、聞くだけで大分スッと楽になれた。
彼がジョナサンについて話す度、とても嬉しそうに笑っていた。
「そうそう、馬車の中でジョースターさんが教えてくれたぜ。
『キレイな黒い髪に澄んだ瞳』『病にかかっても元気に振舞って執事達の手伝いをしてくれる』
『最初は下向きがちだったけど、今は時折見せてくれる笑顔が可愛い』―――ってどうした?」
もう顔が熱くてどうにかなりそうだ。というか人の知らない所で何ちゅーこと言ってんだあの人はッ!!
何やかんやしている内に太陽が雲に隠れ始め、ディオが戻ってくるまで邸内は暗くしたまま。
ジョージさんの要望で彼の側にそってじっと待っていた。本当は室内で休ませるべきなのだが、
本人は「この目で確かめたい。」とカーテンの奥で後ろに待機している警官達と共に控えている。
そして―――それを知らせるドアが重く開閉する。
「どうした執事!?なぜ邸内の明りを消しているッ!」
ディオの声に応じるようにジョナサンが蝋燭に火をつける。
「とうとう掴んだぞディオ!君の悪魔のような陰謀の証拠をッ!」
ディオとの記憶はこれと言って思い浮かぶものがない。何せ私が避けて来たのだから当然だ。
それでも一応親切にしてくれたり、誕生日でもないのに何かと欲しいものはないかと訊かれた。
一般の女性なら喜ぶのかもしれないが、私からすれば「はあ。」という程度である。
そんな彼に対して少なからず友人として見て来たが、今彼に対する感情は何もない。
「ディオ・・・・・・ぼくは気が重い・・・・・・・・・・・・。
兄弟同然に育った君をこれから警察につき出さなくてはいけないなんて残念だよ、ディオ・・・・・・。」
「わかってもらえないかもしれないけどこれは本心だよ。」ディオはテーブルの側にあるイスに座ると
「・・・・・・その気持ち君らしいやさしさだ。」と項垂れる。
「ジョジョ・・・勝手だけど頼みがある・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・最後の頼みなんだ。」その言葉にジョナサンだけでなく私も思わずじっと見つめる。
「ぼくに時間をくれないか?警察に自首する時間を!」
意外な態度に驚かずにはいられなかった。彼なら反撃に出てもおかしくないと思ったから。
「ぼくは悔いているんだ今までの人生を!
貧しい環境に生まれ育ったんでくだらん野心を持ってしまったんだ!」
「バカなことをしでかした。」
「育ててもらった恩人に毒を盛って財産を奪おうなんて!」
「自首するために戻って来た。」
「罪のつぐないをしたい。」
涙を流しながら言うディオにジョナサンは「本当にそうなんじゃないか。」そういう表情だった。
しかしそれを釘打つように出て来たスピードワゴンさんに、ディオの表情は一変する。
「おれぁ生まれてからずっと暗黒街で生き、いろんな悪党を見て来た。だから悪い人間といい人間の区別は
『におい』で分かる!」
そう言いながらテーブルに近づいた。
「こいつはくせえッー!ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッ―――ッ!!
こんな悪には出会ったことがねえほどになァーッ。」
派手に蝋燭を蹴りつけながらディオを睨んでみせる。
「こいつは生まれついての悪だッ!」と指を指すスピードワゴンさんを目に、
ふと視線を変えるとジョージさんが肩を震わす姿が映った。
「わたしは・・・息子と同じくらいの愛情と期待をこめたつもりだったが、間違っていたのだろうか。」
悲しみで溢れるエメラルドの瞳が私を映す。彼らとの7年の間に存在しない私には到底答えられない。
その代わりにはなれないが、そっと彼の肩を触れた。
「ディオ。話はすべて聞いたよ。残念で・・・・・・・・・・・・ならない・・・。」
「息子がつかまるのを見たくない。」と背向くジョージさんを寝室まで寄り添って行こうとした時、
例の薬売りの男が不可解なことを言い出した。
「耳の3つのホクロに顔を持つ―――奴は強運のもとに生まれついとる!」
不安気に二人を見つめるジョージさんをよそに、「手錠をかけてほしい。」とディオが両腕を差し出す。
ジョナサンはそれに応じて警部から手錠をもらう。何か・・・悪い予感がしてならない。
「ジョジョ・・・人間ってのは能力に限界があるなあ。」
突然ディオまでが意味深な言葉を口にする。
その時、先程まで追いつめられていた表情に何故か余裕の笑みが浮かんでいる。
「おれが短い人生で学んだことは・・・・・・・・・・・・人間は策を弄すれば弄するほど予期せぬ事態で策が
くずれさるってことだ!人間に越えるものにならねばな・・・・・・。」
「なんのことだ?なにを言っているッ!」
「おれは人間をやめるぞ!ジョジョ―――ッ!!」
左腕から隠し持っていたであろうナイフと不気味な造りの石仮面。
それとこれと一体どういう関係があるんだ―――と思う以前に突然現れた凶器に私は無意識に体を硬直させた。
「ジョジョ、おまえの血でだァーッ!!」
突き刺さるナイフ。思わず手錠を落としたジョナサンの目線の先に、誰もが目を見開いた。
「とうさんッ!」
無残な光景に硬直していた私の心臓が、大きく揺れた。