普段と変わらない通学路だが、今回だけはいつもと違う。 母親と幼馴染のと共にいつもより早く自分の通う高校に向かっていた。 雲が一つもなく青く澄んだ空が晴々と出ているのに、 怜花達を包むこの空気だけは晴れなかった。 理由は一つしかない―――。 「じゃあ怜花、私達は職員室に行って来るわね。」 「うん。」 母親の言葉に軽く頷く。終始無言でいるをチラリと見た。 自分と一緒にいても無表情でいる時がしょっちゅうであるが、今のは不自然と思えるほど暗い。 それでも声をかけずにはいられなかった。 「、また後でね。」 怜花をチラッと顔を見ると再び顔が俯いていた。無言であるが、小さく頷く。 母が優しく言葉をかけながらの背を軽く支えるように職員室へ向かった。 怜花はその姿を見送り、軽く息を吐いた。 幼稚園時代から唯一付き合いが長いは、 元からこの私立晨光学院町田高校に通っていた訳ではない。 中学校まで一緒に通学していたが、互いに進路希望が別々で半年(・・)まで違う高校へ行っていた。 成績はほぼ同じだが、美術系に長けていたはある美術専門学校に推薦されていた。 高校から別の道を歩むことになると理解するのに、そう長くは掛からなかった。 ―――あの火災が起きるまでは。 *** 幼馴染であり、親友である片桐怜花が通う私立晨光学院町田高校――― これから自分が通う学校であるのだ。 転入初日であるからか、怜花の母と一緒にいるのにも関わらず心臓が激しく鼓動していた。 その緊張感から無意識に息を吐く。 怜花の母親はこの学校の校長と向かい合って話しているが、 緊張と不安を抱えるの耳には一切入って来なかった。 「。」と肩に手を置かれたことでようやく我に返った。 「いい?貴女はこれから2年4組のクラスで怜花達と一緒に勉強するのよ。」 怜花と同じクラス―――にとってなんとも有難いことだった。 しかし、同時に「そんな都合のいい話があるのか。」と僅かな疑念が生まれた。 暫くして話は終了し、2年4組の担任だと言う一人の教師が入って来た。 外見からして頭脳明晰なスポーツマンのようだ。 「はじめまして、今日から君の担任となる蓮実聖司です。君がさん、だね?」 丁寧で気を遣うような口調で出てきた蓮実にゆっくり頷いた。 ここで時間を潰すのもなんだ、と蓮実の言葉がきっかけで 怜花の母と初めて別れて4組のクラスに向かうことになった。 この高校に通うことが決まり、ここに来る以前にが転入することになった訳――― そして彼女がいぜんとして無言を貫く(・・・・・)訳も知らされていた。 「君の家庭事情は聞いてるよ。半年経ったとは言え、辛くないかい?  今日から通うとは言っているが、が無理だと判断するなら今教室に向かうことはないよ。」 の家が何者かに放火され、母親と弟が亡くなった事件は小さい項目として 新聞に掲載されていた。 もう半年経つが、そう簡単に心の傷が修復するはずがない。 それを承知した上で言ったのだろう。既に教室の前に着いていたが、 はもちろん、蓮実も中に入ろうとはしなかった。 長い沈黙が続いたが、は俯いていた顔を上げて 筆談用のスケッチブックを蓮実に向ける。 ≪大丈夫です。≫ 決して明るい表情ではないが、そう伝えるの目には確かに光があると本人も実感した。