結局、あれから圭介だけでなく、雄一郎も含め とにかく男子とは誰とも話したくなかったは、 怜花の背へ逃げるように避け、修学旅行にピリオドを打った。 再び、いつもの日常に戻った。 今日、修学旅行で蓮実自身の口から出た前任校の名前が出ている 二年前の秋で起きた事件について話が出たのたが、 未だに修学旅行のことに引きずっていたはあまり聞く気になれなかった。 が校門を出ようとすると、 もたれて待っていた圭介の姿が目に入った。 「よう。」 も、「よう。」という言葉の代わりに、 首を軽く振って挨拶を返す。 「ちょっといいかな?」 ≪何?≫ 「今日の話。さっき、都立**高の知り合いに電話して、訊いてみた。」 修学旅行のときの言い訳ならすげなく断るつもりだったが、 例の事件についてちゃんと聞いていなかったから、 聞きたいという誘惑には勝てない。 ≪いいよ。≫ そこへ、怜花と雄一郎も追いついてきた。 とりあえず町田の駅まで出て喫茶店にでも入るのかと思ったら、 圭介は「歩きながら話そう。」と言う。 まだ日没までには間があった。 四人は、狭い道をぞろぞろと連れだって歩く。 風がなく、変に蒸し暑い夕方だった。 「電話を替わってもらって、いろんなやつに話を聞いたんだけど。」 圭介の声には、真剣さと、どこか切迫した響きがあった。 「自殺した四人は、同じグループっていうか、  いつもつるんでたらしい。」 「不良グループだったのか?」 雄一郎が、訊ねる。 「いや、どっちかというと成績も良くて頭のいい連中だったって言ってた。  話してくれたやつらは、学年が違うから直接知ってたわけじゃなくて、  全部又聞きなんだけどな。」 「優等生だった?」 「それとも、ちょっと違え感じかな。何か斜に構えてたっていうか、  クラスの中では浮き気味だったらしいとか言ってた。」 「孤立してたの?」 怜花の質問に、圭介は、首を振った。 「いや。そういう感じでもなかったと思うな。  クラスの他の連中とも、それなりにうまくやってたみたいだし。  蓮実に関すること以外は。」 ≪どういうこと?≫ 「やる気のない教師や、やたらと生徒を管理しようとする教師が多い中で、  授業が面白く、生徒の立場に立ってくれるっていうことで、  は、熱狂的な人気を獲得してたらしい。  ところが、例の四人組だけは、蓮実に批判的だったんだとさ。  これといった根拠はないんだけど、何か胡散臭いっていうか、信用できないと。」 「なんだ、そりゃ。」 雄一郎が、つぶやいた。 「親近感が湧くな。俺たちみたいじゃん。」 言わないでくれと目を瞑った怜花をよそに、 は「何を言ってるんだ。」という顔で圭介を睨んだ。 ≪何言ってるの?先生はいい人だよ。  一体どこに信用できないと言えるんだ?≫ 「いや、別に、完全に犯人だって決めた訳じゃ・・・・・・。」 圭介の言葉を最後まで聞かず、は一人、町田駅まで逃げるように去っていった。 「ちょっと、どうするのよ?が怒ったじゃない。」 「俺に言うなよ。事実なんだから。」 「けど・・・・・・最近小野寺みたくなってきたな。  信者とまではいかないけど。」 雄一郎の言葉に、怜花の不安は的中してしまった。 確かに、根拠のない批判だけでは殺す動機にはならない。 しかし、怜花が一番気にしているのは、 までが親友の楓子のように蓮実の信者にならないか、であった。 それをきっかけに、今までの友人関係に亀裂が入らないか、 たまらなく恐怖しているのだ。 ここで嫌な空気を変えようと、雄一郎が口を開いた。 「・・・・・・それで、自殺だっていうことに、疑問の余地はなかったの?」 「それなんだが、警察は、けっこう真剣に調べてたらしいんだ。」 圭介は、渋い表情になった。 「四人とも、司法解剖されてるようだし。  ところが、結局、殺人を示唆するような証拠は見つからなかった。」 「やっぱ、そうだろう?」 雄一郎が、ほっとしたように言う。 「最初っから、ありえないんだよ。  四人も続けて、自殺に見せかけて殺すなんて。」 「いや、そうとも言えないんだ。」 圭介は、立ち止まると二人の方に向き直った。 その目の中に今まで見たことのない色を見出して、 怜花は背筋が寒くなった。 「たった一人だが、躍起になって調べてた刑事がいたんだと。  警察が真剣に調べてたっていう印象が強いのは、  この刑事が教員や生徒に話を聞いて回ってたかららしい。  ところが、学校としては、ただでさえ生徒が動揺してるのに、  さらに引っかき回すようなことはしてほしくなかったわけだ。  それで、かなり強く抗議して、警察とやり合ったらしいんだけど、  その先頭に立ってたのが、蓮実と、寒河江っていう先生だったみてえだな。」 「でも、疑ってた刑事は、たった一人なんだろう?  そいつが、ちょっと変人だったってだけのことじゃねえの?」 「わかってねえな。」 圭介は、舌打ちせんばかりの表情になった。 「一人でも、そういう刑事がいたっていうことは、警察内部では、  かなり強く疑いが燻ってたっていうことなんだ。  しかし、何の証拠もなかったようだし、高校や教育委員会から猛攻撃を受けて、  結局は、渋々、矛を収めたわけだろうな。」 「その刑事さんに、話を聞けないかな?」 改めて、今この場にがいなくてよかったと、怜花は安堵した。 怜花の質問に、圭介は、唇の端を歪めた。 「聞くのは、けっこう簡単かもな。俺も怜花も、知り合いだし。」 「え?」 「下鶴のおっさんなんだよ。  警察っていうとこは、絶対に個人プレイは許さねえからな、  この一件のせいで、捜査一課から署の生活安全課(セイアン)に飛ばされたんだ。」