H.Rが終わり、転入生であるは早速クラスメイトに 質問の嵐に追われていた。 「どこの学校から来たの?」やら「部活どこにするの?」やらで 持ちきりである。 本人もここまで囲まれることになるとは 想定しておらず、一人ずつ対応することに精一杯だった。 「久しぶり。」 ≪ほぼ半年以来だね、雄一。≫ 「二人とも知り合いなの?」 ≪怜花の紹介で顔見知りになったんだ。≫ 「まさか本当にここに来るとは思わなかったぜ。」 後から声をかけて来た夏越雄一郎は怜花が一年の時から同じクラスで、 1組である早水圭介とも一緒であった友人だ。 まだ1年であった頃、偶々会う機会があったのがきっかけである。 「そうなんだ。」と楓子はゆっくり頷いた。 ≪圭介は別のクラスなんだね。≫ 「昼休みになったら一緒に飯食べようか。」 「賛成。」 そんな流れで授業も何事もなく終わり、 早速三人は圭介と合流してから屋上へ向かった。 怜花、圭介、雄一郎の三人と一緒になるのは本当に久しぶりだ。 放火事件の後、何の気力も起こらない自分に圭介達からもらった 励ましメールにどれだけ救われて来たか―――。(もちろん、怜花のも) そのメールを今でも大事に保管している。 彼らと他愛な会話を交わすだけでも、にとって安やらぎであった。 「学校終わったらどうする?せっかくが来た訳だし、  何かパーッとさ。」 「圭介がやりたいだけでしょ。」 「でも何だかんだ言いつつ参加するんだろ?怜花。」 「それは、そうだけど・・・。」 「何か要望ある?。」 既に乗り気である雄一郎が視線を向けて来る。 そんな三人には申し訳ない気持ちで表情を歪めた。 ≪実は放課後、蓮実先生に話があるからって言われてて・・・。≫ 「蓮実が?」 「わたしも一緒に行こうか?」 ≪話するだけだって言ってたから大丈夫。≫ そう伝えたが、何故か怜花は浮かない表情だった。 思えば時折、蓮実とすれ違う度に緊張しているように見えていた。 「じゃあ話が終わるまで待ってるよ。」 ≪そんな!そこまで気を遣わなくたって―――≫ 「好きでそうしたいだけなんだから気にするなよ。  ていうかお前・・・本当に変な所で真面目だよな。」 「確かに・・・。」 怜花まで・・・!と心の中で若干涙目になって彼女を見た。 その後からどっと笑いに変わった。 それから時間が過ぎるのは本当にあっという間で、 怜花達と別れてから蓮実と対面した。 「転校初日はどうだった?」という質問がやって来た。 ≪皆―――とは言い切れませんが、仲良くしてくれるので  ホッとしました。≫ 「ああ、片桐達もいたからね。」 「それなら良かった。」と蓮実は柔らかい笑みを浮かべた。 ちなみに―――と付け足す蓮実には次の言葉を待った。 「担任の俺は・・・どうだったかな?」 まるで新米教師が初めてクラスを受け持ったような言葉だった。 転校生が来るのは初めてだからなのかな、とそう解釈することにした。 ≪―――何から何まで気を遣ってくれるので、とても感謝しています。  担任が蓮実先生でよかったです。≫ 「―――そうか、それは光栄だよ。何かあったら何でも訊いてくれ。  力になるよ。」 ≪ありがとう御座います。≫ はにかむ蓮実に、何故かこちらもほっこりとした気持ちになった。 そんな中、ふいに目に映った窓からこちらに向かって 手を振って来る圭介の姿を捉え、思わず笑みをこぼして手を振り返した。 僅かな間だったが、こちらを見る蓮実の視線に気づいて慌てて頭を下げた。 「ああ、ごめん。早水達と約束してたらしいな。用はそれだけだよ。」 ≪本当にすみません、先生。≫ 「いや、構わないよ。・・・。」 「?」 「これからはって呼んでもいいかな?」 思いもしなかった言葉に思わず「えっ!」と目を見開いた。 以前通っていた学校に名前で呼ぶ教師は何人かいたが、 自分がそう(・・)呼ばれることは一度もない。 の驚いた表情に、流石の蓮実も何か気に障ってしまったのだろうかと目を張った。 「すまない・・・嫌ならいいんだ。」 ≪いえ、構いませんよ。前まで一度もそう呼ばれたことがないので・・・。≫ 「そうか・・・。」と一瞬俯いた顔をふと上げた時、 蓮実の目が先程と違うもの(・・・・)に変わっていたことに違和感を覚えた。 しかし、その目は元の色に戻り、すぐ笑顔になった。 「ありがとう。引き止めてすまなかったな。」 ≪いいえ。それでは。≫ 「Good bye.」 さっきの目線は自分の気のせいだろうと決め、 軽くお辞儀して怜花達のところへ急いだ。 自分と会うなり、「大丈夫だった?」と訊いてくる 怜花に軽く頷いた。 何故自分の担任である蓮実にそこまで不穏な態度を取るのだろうと 思い切って訊いてみた。 「はっきりとは言えないけど・・・何か怖くて・・・。」 昔からある直感的な何かだろうか。 小学校時代にある(・・)経験をして以来、 学校や先生に不信感を抱くようになったのを思い出す。 ≪まさか蓮実先生に何かされたの?≫ 「ううん。」 ≪・・・じゃあ―――≫ 「はいはい、話はそこまでにしてさっさと遊びに行こうぜ!  でなきゃ日が暮れちまうぞ。」 ≪そうだったね、ごめんね皆。≫ 「うし、まず何か食おうぜ。」 怜花の蓮実による不信感が気になるが、今は皆と過ごす時間が大事だ。 疑念を頭の隅に押し込め、何を食べようか考えるのだった。