目覚ましで惑星を破壊し、その後片付けをがせっせっと箒で払う。
だが、いつもの朝食風景がなかった。ビルスは朝からデザートばかり食べているのだ。
ウイスが何か言いたげな目をしているが、あえて無視する。
「ご馳走様。中々美味しかったよ。」
「お口に合ったようで何よりです。」
「地球に来る前にじっくり堪能したが、ショートケーキというのも美味しいね。」
「作れるものでしたら何でも可能です。」
ずらりと並ぶスイーツにビルスはまた手を伸ばす。
甘ったるい匂いで胸焼けしないのは、この星の特有な空気のおかげだろうか。
ここにある洋菓子は彼の向かいに立つ女が作ったのだ。
「君も一緒にどうだい?」
「私は水さえあれば大丈夫です。」
「まあまあ、ボクが言ってるんだからこっちに座りなさい。
感情がなくても食べることはできるだろう?」
ビルスが座れと指すイスにゆったりと腰かける。
神の隣に座る、ましてや破壊神の側を許されるのはウイスだけだ。
依頼主に無礼な作法はするなとマナーを叩き込まれたが、このようなことは初めてである。
「君が作ったショートケーキ食べてごらん。」
「味見したはずなのですが・・・。」
「それとこれとは別だよ。はい、口開けてー。」
そう言ってその一切れをの口元に運ぶ。
あと数センチのところで止まったそれをおずおずと口にした。
「どう?」
「甘い。」
「もう少し捻った感想はできないの?」
「・・・スポンジがふわふわして、イチゴは甘酸っぱいです。」
「あー・・・あながち間違ってはいないけど・・・まあいいや。」
眉間にシワを寄せ、顔を顰める破壊神に首を傾げた。
「私の感想はだめでしたか?」
「いいえ。ビルス様は悩むお年頃なので気にしなくて構いませんよ。」
「はあ・・・。」
「ウイス、余計なことは言わなくていい。」
寧ろ、神に年齢があるのかないのか、そもそもビルスがいくつなのか・・・
その疑問を抱く者は、残念ながらこの星には存在しない。
しかし、と出会ってからビルスが目覚める回数は増えている。
他人にも関心を示さなかったのに、最近ではを人間らしくしようとする光景を目にする。
破壊神がこのようなことするのは果たして良いといえるのか。
彼のすべき使命が消えてしまえば破壊神ではなくなる。星を破壊する神とその後片付けをする。
その共通点は遠いようで近い。あの時、ビルスの意見に反対していたらよかったのだろうか。
だが正直なところ、自分も彼女の作る料理(スイーツだけでなくご飯ものまで作れるのだ)を
気に入っているので、この件が解決する道はかなり険しい。
「ウイスさん、どうかしましたか?」
「いえ、ちょっと貴女に作って頂きたい食べ物を考えていました。」
今も自然に他人を気にかける行動をしたのを、彼女は気づいていない。
「さん、以前地球で小耳に挟んだ食べ物なんですが、水羊羹をお願いしても?」
「待てウイス。にはマカロンを作るのが先だ」
「失礼ですがビルス様、私の記憶に間違いがなければその話をされたのは今が初めてかと・・・」
「だからなんだい?ボクは君よりもずっと前から考えていたんだ」
「そう言ってビルス様ばかり優先しているではありませんか」
「両方とも作ります。」
「「それじゃダメ(です)だ!」」
小さな争い事も好まないはずのウイスだが、食べ物のこととなると従者であることを忘れてしまう。
「ボクは神なのに・・・」と愚痴っても、「知っています。」しれっと返されるのだ。
何故言い争いするのか疑問を抱いたが、喉の渇きを覚えたはすぐにそれを捨て、
二人を置いてそっと席を外すのだった。
ある惑星の朝の食卓