39年ぶりに目覚め、すっかり地球の食べ物を気に入ったビルスは
従者達を連れて再びブリーフ邸に現れた。
約束通り用意された大量のプリンを見て大喜びのビルスをよそに、
ウイスは別の食べ物に釘付けになっている。
一人で黙々と食べ、満腹を覚えたは箸を置いた。
ビルスとウイスから食事を止める気配はない。
やる事を失ったは皿の片付けをすると、このブリーフ邸に住むブルマが此方に寄ってきた。
何年経ってもその美貌は変わらずだ。
「あら、一人?」
「はい。」
ブルマはチラリと二人を一見すると、「ちょっとこっちに来てくれる?」
の手を取って、豪邸の中へ移動した。
ブルマの広すぎる個室をぽやんとした表情で眺めた。
「はずっとその服装でしょ?女の子なんだから少なくても20着は揃えるべきよ。」
「そうなんですか?」
「私からすればまだまだ足りないわよ。早速だけどこれ着てみて!」
差し出されたワンピースを前に、はその後ろに溜まっている服の山を見た。
一体どのくらいで終われるのだろうか。
***
目的のプリンを完食して満足したビルスはふと、スプーンを持った手を止める。
いつも少し離れた位置に座っているはずのの姿がない。
命令というか、指示されるまで別行動することがないはずの彼女が
最近になって自分の判断で動くようになったものの、自分が起きている間では一度もなかった。
今までそんなことなかったはずなのに、彼女の姿がないと落ち着かない自分がいる。
「君たち、を見かけなかったかい?」
「白黒のお姉ちゃん?」
「知らないよ。悟天は?」
「ボクも見てないよー。」
「そうか・・・。」
「あなたが捜しているのは、この子かしら?」
ジャジャーン!と効果音を背景にブルマが体を反らすと噂の本人が立っていた
・・・・・・が、いつもと様子が違う。はて、と首を傾げる。
よく見ると普段着ている灰色のコートとズボンではない。
ノースリーブといっていた上衣に、八分丈のレギンス、
サンダルといった肌が見える恰好だ。(そういえば髪型も違う)
以前もブリーフ邸に集まっていたブルマと長い付き合いのメンバーの視線がにとまる。
「どうしたの?あたしのコーディネートが完璧すぎて声が出ないのかしら?」
フフッと満足気な笑みを浮かべるが、ビルスは変わらぬ無表情で返していた。
「・・・着替えろ。」
「は、」
ポツリと出た小声を逃さず拾ったが最後まで言う前に、突然体が崩れた。
の全身に駆け巡るのは吐き気と激痛。体を屈めるに当然周囲はどよめいた。
「?どうしたの?」
「どうやら体調が悪いようだ。すまないがベジータ夫人、部屋を借りてもいいかな?」
「ええ、すぐドクターを呼ぶわ。」
「それは必要ない。よほどのことがない以上、の自然治癒で平気さ。」
「そ、そう?」
が地球人ではないことは以前から知っていたが、それでも心配してしまう。
トランクスや悟天が「大丈夫?」と声をかけるが、今のにそれを返す余裕がなかった。
ますます縮み込むの体を、ビルスは横脇に抱えた。
「ちょっと抱え方!」とブルマの非難を受け流し、ブリーフ邸の中へ消えた。
適当に選んだ部屋のベッドの上にを寝かせ、自分はその脇に座って彼女の顔を見下ろす。
何故こんな面倒なマネをしたのか、自分でも分からなかった。
「気が付いたかい?」
ぱっちりと開かれた白い眼が真っ直ぐビルスの姿を捉えた。
「ビルス様。」既に痛みは引いていて、声もハッキリしていた。
「何故腹部を殴ったのですか。」
「ボクにも分からない。気付いたら殴ってた。」
「理由もなく殴られたこっちは痛い思いをしたのですが。」
「・・・ただ、」
「?」
「今の君を見て、他の奴らに見られるのが気に食わなかった。」
淡々と述べるビルスだが、後ろの尾はだらんと垂れ下がっていた。
は一言「はあ」と、返すだけだった。
「最初からそう仰っていればいいじゃありませんか。」
「口より先に手が出ちゃったんだ。」
「おかげで死にかけました。」
「力加減したよ。」
「微塵も感じません。」
ぐだぐだと言い合いが続いて十分後、二人は外に出た。
はいつもの服装に着替えていた。
「ブルマさん、先程は貴重なお召し物をありがとうございました。
こちらはクリーニングしてから後日にお返しします。」
「あら、その必要はないわよ。それ、あなたにあげるつもりだから。
でも誰かさんはお気に召していないようだから無理そうね。」
「ボクがいつ気に入らないって言った?」
「「えっ?」」
ブルマはともかく、さっきまで嫌だの何だのと聞いていたまで声を上げた。
「まあ、一着くらい違う服着てもいいんじゃない?」
普段と変わらない口調だが、何故か目を合わせようとしない。
察したブルマはまあ!とにやける顔を手で隠し、は首を傾げた。
唯一、ビルスがの腹部に拳のようなものを放った場面をたまたま目撃したピッコロは、
あのプリン騒動みたく最悪な状況にならなかったことに一人安堵していた。
それ以来、ビルスに付き添うの服装が度々変わっていたという。
ビルスはファッションを覚えた!▼