*惑星ベジータが破壊される1年前くらい
元々、はビルスの従者じゃなければウイスのでもない。
大界王神の付き人であり、『仲介』の役でもあったメルヘス界王神の下で働いていた。
五百年ほど前、魔人ブウのと戦いで万が一自分が死んだ後のことを考えたメルヘスは、
自分の代役として自らの両手から分身となる生命を生み出した。
それが後の『掃除屋』となるだった。
だが辛くも戦いに生き延びたメルヘスは自分の役目を続行し、
当時小さかった娘は大人となって数々の『清掃』をこなしていった。
その使命を全うする機械同様たる行動が、逆に破壊神の不機嫌を買うハメになってしまった。
―――だが。
「君、ボクの下で働かない?」
彼女が原因とはいえ、自分だけでなく生みの親や故郷もろとも破壊した本人が
そう言ってくるなんて誰が想像していただろうか。
帰る星すら失ったメルヘスと界王神の母星へ一旦身を寄せていたは
不思議そうに首を傾げるだった。
破壊神の誤算
「さん、次は此方をお願いします。」
「かしこまりました。」
メルヘス界王神の側を離れ、ビルスの住む星で雑務をこなして半年―――。
膨大な仕事の量など『掃除屋』をやっていた彼女からすれば朝飯前だ。
だが、その内容はメルヘスのいた頃と何の変りもない事務作業。
というより朝昼夜の仕込み準備だけである。
「ウイスさん。」
「おや、もう終わりましたか。ではこの恐竜のお肉の仕込みをお願いします。」
「はい・・・・・・。」
は二つの名の通り、清掃することが使命だと信じて疑わない。
その仕事を与えてやると言ったビルスの条件を呑んで此方へ来たというのに、
彼女の望む仕事は一向に回って来ない。
殆ど何もない惑星である故、掃き掃除などほぼ必要ない環境なのだが、
それでも別の星の掃除とか、そういった仕事もあるはずだと初めて苛立ちというのを覚えた。
「まあ、なんていい香り。ビルス様には内緒でちょっと味見を・・・・・・おお!
なんという風味!私と同じ味付けとは思えません!素晴らしい腕前ですよ、さん。」
「ウイスさん。」
「何でしょう。」
「ビルス様は何故私をお誘いなさったのですか。」
ここで初めて疑問を口にする少女に、ウイスは意外といった表情で見つめ返した。
「おや、お忘れになったのですか?
貴女のお菓子を気に入ったと、自分の下で料理の腕を振るってくれと
言っていましたのに。」
そのお菓子とは、寝起きの悪いビルスの光線に撃たれた衝撃でうっかり落としたマフィンのことだ。
だがそれは以前の雇い主の命令で見様見真似で作った菓子であり、
雇い主の命とはいえど、清掃とは全く関係ない内容に興味を示していなかった為、
は気にも留めていなかった。
その時本人よりも、メルヘスが一番驚愕していたが。
「私は掃除するために生まれて来たのです。あくまでも掃除するためにこの惑星へ来ました。
その使命を全うさせて下さい。」
「まあまあ、そう頑固にならないで下さい。貴女の掃除好きは存じてます。」
「では掃除の仕事を下さい。」
「そうおっしゃいましても生憎、本日の清掃は終わってしまいましたので。」
「では他の惑星の―――」
「さっきからうるさいぞ!眠れないだろ!」
突然降ってきた光線を避けると、陳列していた食材や調理器具が無残にも消し飛んでいった。
ビルスは寝間着のまま猫特有の仕草で顔を洗い、ジトリと目を細めた。
「おや、ビルス様、寝ていらしたのでは?」
「お前達の会話が耳に届いて眠気が覚めちゃったんだよ・・・・・・。」
「仕込みの香りにつられて起きただけでしょう?」
「ところで君、聞いてみればこの仕事に文句があるみたいだな。
行く宛てのないお前を引き取ってやったのにずいぶんと生意気な発言じゃないか。」
ウイスの言葉を無視しての前に一歩近づき、此方を見下ろす彼女を見上げた。
「貴方の条件通り、ご希望の料理を多く振る舞ってきました。
ですが私が出した条件をビルス様、まだそれを実行していません。」
「ほう、破壊神に向かってよくそんな口の利き方ができるな。
今ここですぐ破壊してもいいんだよ?」
「永遠に掃除ができないのは困ります。ですが今はそれと変わりない。
私の条件を呑んでくれないのであればどうぞ、この命を破壊下さい。」
頑固たるその決意に、光線を出そうとしていた光が弱まっていく。
命を捨ててまでも意見を通そうとする者は、これが初めてだった。
今まで会って来た自分が可愛い奴らとは違うこの大きな差。
普段なら望み通り命を摘み取っていただろうに・・・・・・
攻撃を止めてしまった自分にビルスは動揺を隠せなかった。
ここでコホン、と軽い咳払いがした。
「さて、二人の言いたいことがハッキリした所で早速その仕事をお任せしましょう。
この調理場を綺麗に片付けて下さい。」
ウイスが指した惨状となった調理場もどきを見て、心なしかの眼が嬉しそうだ。
「はい」と短く答えると、ビルスの横を堂々と通って作業に取り掛かった。
誰もが嫌がる仕事を楽しそうに進める背中に思わずため息が出た。
「ウイス・・・・・・勝手に割り込むな。まだ話は終わってないんだぞ。」
「いいじゃないですか。このまま続けても埒があきませんし、この方が最善かと。」
「面倒な子だなあ・・・メルヘスの奴、情を取り除いたとか嘘をついたんじゃないか?」
「それはありませんよ。
彼女の素性を調べてみましたが、元雇い主が亡くなった話を聞いて悲しむどころか、
今度はその敵の方に雇われていたり・・・・・・半年前まで彼女の方から意見をいうことも
ありませんでした。彼女にとって掃除することが全てなんです。
食べ物すら興味がないとは本当に勿体ない。」
ウイスはこれまで食べて来たの料理の味を思い返し、残念だと不満の表情を浮かべた。
「はあ・・・・・・うまいメシを作れる腕がなかったら復活させてやらなかったのになあ。」
何故、破壊神の自分が彼女のご機嫌取りをしなくちゃいけないのか。
ビルスは腑に落ちない顔で、まだアツアツの恐竜の肉を素手で掴んで口の中に放り込んだ。