いつも賑やかで笑い声が絶えない孫家。
腹の底を知らない食欲で料理を口の中へ放り込む悟空たちの輪に混じって
一人黙々と食べていた少女は、空になった皿の山を持ち上げた。
「チチさん、こちら全部洗ってもいいですか?」
「そんなことしなくていいだ!お客様にさせるなんて・・・!」
「ん?何だ、お前全然食ってねえじゃねえか。」
少女が運んでいる空の皿は並大抵の者から見ても十分な量である。
悟空が指摘するのは、彼女がサイヤ人のハーフであるからだ。
同じ混血である悟飯や悟天でさえ、悟空に劣らぬ膨大な量を消費している。
いくら女性でも同じくらいの食欲を持っているはずだった。
「私はこれで十分です。悟空さん達は食事を続けて下さい。」
幼さが残る表情に浮かんだ微笑に何故か悲哀が入り混じっていた。
まだ見ぬ希望
「んじゃ、始めっか!」
「よろしくお願いします。」
が地球へやって来たのは数か月前。
惑星ベジータが滅ぶ前、の父親は体が弱かったが為に辺境の星へ追いやられていた。
好戦的なサイヤ人としては珍しい大人しい性格で義理高く、
自分を温かく迎えてくれた異星人と結婚し、高齢で長女をもうけた。
それがである。
まだ小さかったにも関わらず、成人したサイヤ人に匹敵する程の戦闘力を持っていた。
この星の新たな王の後継者に選ばれるのはそう遅くはなかった。
だが、父親の血受け継いでいた彼女は僅かな時間でしか戦えない体だった。
父と自分をよくしてくれる第二の故郷に恩義を返すため、
強くなりたいと心に決めたは星を転々としながら修業を積んでいき、
ついに悟空たちのいる地球へ降り立ったのだ。
当然、サイヤ人は自分達しかいないはずだと言うベジータを中心に強く警戒された。
しかし、好戦的な傾向が薄いのと、幼くも何処か品のある礼儀正しい性格のおかげか、
意外にも早く皆と打ち解けるようになっていた。
一時期、悟空とベジータによる師匠の座を争うことになったのもそれが発端だ。
(勝ったのは御覧の通り―――)
「ほんと、変わった気だよなあ。へへ、お前がどのくれえ強くなるか楽しみだ。」
少女のためというより、自分のために稽古つけるといった方が正しいだろうが、
力をつけるなら師匠は誰でもよかった。
今まで戦いの術をまともに教えてくれたのは父で、悟空がその二人目となると―――
やはり、その差は歴然だった。
父もそれなりの戦闘力の持ち主だが、悟空はそれ以上だ。
レベルが・・・・・・違いすぎる・・・・・・!
「どうした?まだまだこんなもんじゃねえだろ。」
「ぐっ・・・・・・。」
超サイヤ人2に変身した悟空の前でこの様だ。
『限界時間』まであと2分。
短すぎる―――いや、まだ2分ある。いや、まだだ・・・・・・まだ戦える!!
「はぁぁぁああああああああ!!!」
喉が張り裂けんばりにエネルギー弾を放射し続けた。
しかし、突然気力が切れてしまう。
目の前で悟空の手に集まる気が青白く輝きを増した。
だめだ・・・・・・避けきれない。もっと、戦いたかったな。
覚悟を決めて目を閉じた。だが、かめはめ破が襲ってくる気配はいつまで経っても来ない。
そろりと片目を開けると、変身を解いた普段の孫悟空がキラキラとした目で飛んで来た。
「すっげえな、お前!もし、あのまま気力が切れなかったらオラちっと危なかったぞ。」
「そう・・・・・・ですか?」
「でも、力っちゅーのがなっていなかったなあ。せっかくいいもん持ってんのにもったいねえぞ!
その辺もオラが教えてやっからな!」
「は・・・・・・はい、また・・・お願いします・・・・・・。」
よく見ると悟空の胴着が所々破けている。
攻撃をまともに受けてヘラヘラしていられるこの人はやはり只者じゃないと
改めて思い知らされた。
息切れしているを見て、悟空は何を思ったのか、んー・・・と首を傾げるなり、
「なあ」と声をかけた。
「お前のその体、神龍に治してもらっちゅーのはだめか?」
「神龍・・・・・・以前お話してくれた何でも願いを叶えてくれるという・・・。」
「おう。今でも十分楽しいけどよ、やっぱりもっともっと長く戦いてえんだ。」
時間が限られているのだから、戦うのが大好きな彼からすれば短すぎるのだろう。
やはり、自分もサイヤ人の血を引いているからか、
悟空のその言葉を聞いて喜んでいる自分がいる。
それでも、は首を縦に振らなかった。
「ありがとうございます悟空さん。ですが・・・神龍に頼むことはありません。」
「いぃ!?何で?」
「私はこの弱い体であるが故、故郷やこの地球に住む皆さんにも多くの迷惑をかけています。
時間はかかるかもしれませんが、自分の体は自分の力でなんとかしたいんです。」
「かあ〜・・・お前、ほんっと頭堅いな!でも、そういうとこ嫌ぇじゃないぜ。」
「わがまま言ってすみません。」
「ん?何で謝る必要あるんだ?それに迷惑なんて一回も言ってねえぞ?」
そう言って、悟空はいつもの無垢な笑顔を浮かべた。
***
ゼノバースの師匠クエストのセリフに思わず書き殴った。
ゼノバース設定でもよかったかな?なんて思ったり。
混血夢主は某マンガ・アニメの子をイメージ。