力こそ全て。過去は全て捨てた。
あの『魔王』と並ぶほどの『覇王』が率いる豊臣軍に新たな武将を招いたと、
しかも唯一の女子だと大阪城ではちょっとした話題で持ち切りである。
けれどそれはあくまで下級兵内でのこと。既にその事情を知っている武将達。
それが原因で凶王は心底不機嫌であり、城内を絶対零度まで下げんとしているのだ。
不本意であるが原因を作ってしまった当の本人はのほほんと木々の間に飛び移ったり、
木の枝につかまってぶら下がったりと忙しく動いている。
そうまでしないと腹の虫を欺くことができない。
だがそれは「。」と呼ぶ青年の声によって中断される。
「あ゛い、何・・・ですか?」
「人と話す時はちゃんと下りて来るんだ。」
「あ゛い。」と短く返事すれば身体をくねらせ、改めて青年の元に飛び下りると、
小さな体を屈ませ頭を下げた。頭上から「いい子だ。」と先程とは一変して優しい声色になった。
「、この城に来て大分経つけど居心地はどうだい?」
「う゛!ひ、ろいっ!ごは、おい、し!」
黄緑色に染まる綺麗な髪をなびかせながら、少女は両腕を大きく振った。
彼女は口内を負傷しているが故、言葉を聞き取るのは困難である。
この様子からして、「この城は広い!ご飯美味しい!」と言いたいのだろう。
青年は滅多に見せない柔らかな笑みで「そうか。」と満足気に頷いた。
「、ここに来た以上、忍として本格的に働くんだ。
情報収集はもちろん、戦にも出てもらう。死んだらそれまで・・・・・・いいね?」
「―――あ゛、」
「貴様ァ!畜生の成りの果てがァ!半兵衛様の命が出ている時に何を呆けている!?」
が了承の意を最後まで言う前に、朝から不絶頂である石田三成の怒声によって遮断された。
しかも、まだ発展途中の幼女に向けていいとは思えない罵言も交えて。
秀吉と半兵衛に尊敬の域を超えた絶対的な忠誠を誓った三成は秀吉らと長く過ごしていたこともあって、
その思いは誰よりも勝る。いつの日か秀吉の左腕となる為に・・・・・・。
そんな中突然現れたのが彼女。賊に襲われた村から保護(というより拾った)したらしい幼子。
豊臣には邪魔でしかない。何故このような輩がここにいることを許されるのか三成は憤っていた。
を見るなり一層甲高い声を上げるが、彼女の前に立つ半兵衛の姿を捉えた途端、
すぐに膝をおって頭を下げた。
「忠告している所ですまないが、もうにはそう伝えている。」
「はっ!ご無礼を失礼しました。」
「続けて言うけど三成君。君にの教育係を任せたい。」
「はっ!・・・・・・・・・今、なんと・・・?」
「だから君に、しばらく彼女の指導をしてほしい。」
どうか聞き違いであってくれと心底願ったが、半兵衛の笑みによってそれは打ち砕かれた。
何故、何故に!?
「半兵衛様、大変真に無礼の承知で申し上げます。
その者はまだまだ未熟故ハンパ者。
指導は要するかと考えられますが、指導者は私でなくとも・・・。」
「君が一番適任だと思うんだ。その的確な判断でより勇ましい成長をとげるだろう。」
「大変勿体ないお言葉・・・!ですが、この件に関しては左近が・・・。」
「三成君。これは僕だけでなく、秀吉からの命令だ。有力な人材はより多くほしい。」
半兵衛の言うことは最もだ。
更に主君の名が挙がってしまっては流石の凶王も拒否する訳にはいかない。
ただコイツの面倒を見るというのは非常に不本意だが、これも秀吉様の為、豊臣の為・・・。
「はっ!仰せのままに・・・。」
「、ちゃんと彼の話を聞き逃さないようにね。」
「あ゛い!はんべ様!」
「は・ん・べ・え様だ!貴様はまず人の名を適切に言え!」
「僕はいいんだよ、三成君。」
「し、しかし・・・。」
「秀吉様!はんべ様!なり様!」
「・・・・・・後者は一体誰だ。まさか、この場にいる人間とは言わないだろうな?」
「う゛!貴方・・・様、です。」
「半兵衛様!どうかこの女子の斬首の許可をォオオ!」
「そのくらい大目に見たらどうだい?僕は中々いいと思うけど。」
「半兵衛様ァ!?」
忍見習いに上司ができました。
2014/08/16