物音もしない皆が寝静まった夜。 月明かりだけが照らされる部屋の中央にぽつんとは座っていた。 目の前には丁寧に盛り付けられた惣菜や煮つけ。 膳に乗っているそれを箸でつかんだ一口食べれる量を恐る恐る、 口の中へ運び、ゆっくりと噛みしめた。 「・・・・・・っ!!」 口内から容赦なく古傷の痛みが走った。一旦箸を置いて口元を押さえる。 女中が作る料理は美味のはずなのに味がしない。 ただ激痛だけがこの体を支配していた。咀嚼する余裕もなく、無理やり飲み込んだ。 食すだけなのに溜息と涙が出てしまう。 味わう楽しみも与えてくれない。ただ苦痛しかない食事―――。 一体いつまで?満足に食べられる日は何年後に来る? 「やれ、またか。」 音もなく部屋に入って来た大谷は肩で息をするを一見してそう言った。 運ばれた料理は既に冷め切っていて、全く減る様子もない。 この調子じゃ食べきれることは困難であろう。 は少々乱暴に涙を拭った。 「これこれ、そんな強く瞼を擦るな。童子の肌は弱い。」 「・・・・・・ぎょ、ぶ・・・。」 「どうした。終いか?」 「っ・・・・・・や!まだ、食べ、る!」 「そう言ってもな、完食した試しがないであろう。」 咀嚼する度に激痛が走り、箸を止めるのはこれが初めてではない。 膳に収まるおかずを食べ切るだけでも精一杯である彼女にとって難題であった。 それでも空腹を満たしたいが為に、人間の三大欲求の一つの食欲に忠実であるは 頑なに首を縦に振らない。 これが三成だったらどんなによかったかと、つくづく少女の意地の強さには感服する。 「食べたい、し・・・・・・残し、たぐな゛い。」 「やれやれ。三成といい、主といい、頑固で困った、コマッタ。」 「あ、汁もの・・・う、ぐっ・・・!」 「言ったそばから・・・・・・仕方あるまい。、口開けい。」 「あ゛い・・・・・・。」 暗闇の中で一層不気味さを引き立たせる大谷だが、 痛みを堪えて素直に口を開ける少女を見る目は優しかった。 辛い食事事情 2014/10/02