「貴様の弛み切ったその姿勢が気に食わん。今日こそその性根を叩き斬ってやる!
止まれぇえええ!」
城内を怒涛の如く砂煙をあげて走る三成と、負けじと彼から逃げる。
もはや豊臣名物となっている今、皆は「ああ、またか・・・。」と半ば呆れ顔で慣れていた。
途中「何故じゃぁあああ!」蹴り飛ばされた官兵衛の悲鳴をBGMにしてそれぞれ持ち場に戻っていく。
これだけ騒がしくすれば決まって半兵衛か大谷が静止に来るのだが、生憎その二人は不在。
「あ。」と腑抜けた声が漏れた時にはつるっと足を滑らせ、体が一瞬宙に浮いた。
それをこの男が見逃すはずもなく、すかさず抜刀した。
振り落とそうとしたその時、は両手を床について獣のように四肢を伸ばした。
逃げるなという声はお構いなしにぴょんぴょん最上階へ向かう。
縁側からひょいと顔を出して「失礼しま゛す。」と言葉も忘れずに中に入った。
この部屋で執務していた本人は驚く様子もなく、一旦筆を止めて少女に視線を向けた。
「随分と賑やかだったな。」
「なり様と、鬼事。でも逃げ切り、まじだ。」
「今日もの勝利か。」
ほぼ毎日追いかけられているため、
筋肉がつきにくい彼女でも三成と互角といえる俊足へ日々強化している。
当然、この城の主であり豊臣軍の総大将である秀吉も彼らの鬼事もどきを知っていた。
「今まで三成に捕まってばかりのお前は目覚ましい成長を遂げた。
これからも精進せよ。」
「あ゛い!」
秀吉に滅多に褒められることはないので、は大いに喜んだ。
三成に知れば一日中歯軋りしながら鋭い眼光で睨まれるに違いない。
「して・・・・・・よ、今の生活はどうだ?」
先程とは違う真剣な顔つきで問いかける秀吉に、伸びていた腕の動きが止まった。
今の生活、ということは正式に豊臣軍に迎えられるまでの期間も含めているのだろうか。
「すごく、楽しい゛です!でも・・・まだまだ学ぶこど、多いです。
うち、弱いから・・・強く、なり゛たい。」
「・・・・・・民の暮らしに戻る気持ちはないのか。」
「う゛?」
予想外の言葉には思わず秀吉を凝視した。
「お前をここに置いたのも、憔悴していた幼きお前を保護するよう命じたのも我自身。
だがお前は修羅の道を選んだ。絶望を身に持って思い知らされて尚、何故自ら傷を抉る?」
「・・・・・・秀吉様、それ゛はちょっど・・・違いま゛す。」
じっと黙って聞いていたが初めて反論の言葉を申し出た。
「うち、賊に親、殺された。怪我も゛負った・・・。
でも、一番嫌なの゛は、何も食べれず・・・死んじゃうの、嫌です。
そしたら、『強くなればいい。』って・・・はんべ様が・・・・・・だから・・・。」
「・・・、我が思っていた以上に肝が据わった童子であるな。」
「うう゛ん。うち、餓死、嫌なだけ。秀吉様にはおよ、ばない。」
「うむ、その強い食欲を三成に伝えねばなるまい。」
あ、この人も同じこと思ってたんだ・・・。
他人の理解を求めない難しい性格の彼でも思ってくれる人達がいる。
思わず頬を綻ばせた。いつも厳格な顔つきである秀吉も、この時だけ少し表情が優しかった。
てな訳でこれからも頑張ります。
2014/10/06