*アヌビス神戦後
*かなり捏造の塊なので何でも許せる方のみどうぞ
思ったよりも川底が深い。
真上から太陽や月の光が差し込んで来るが、下へいくほど周りは暗い。
あれから―――どのくらい経っているんだ?
承太郎のスタンド『星の白金』に刃をへし折られ、
挙句の果てには切っ先だけとなってナイル川に沈んだ。なんて屈辱だ。
・・・だが、そんな感情は最初の頃だけ。
我が妖刀の気を警戒してか、人どころか魚さえ寄り付かない。
残っているのは孤独・・・・・・いつしか全体が錆びつくのを待つのみ・・・・・・。
あの時いっそ、粉々に砕かれていれば楽になれただろうに。
―――ゴポッ
ふと、自分を覆う影を察知して意識を上昇させる。
今は朝か昼間であろう、太陽の光が差し込んでいて、それが逆光で影は黒いまま。
当然、自分は刃の破片であるため自ら動くことはできない。
そのまま謎の影に包まれ、持ち上げられる感覚を覚える。
ザパンと水面から出た瞬間、その自然の光に直接反射した。
切っ先を拾ったその影は眩しそうに顔を歪める。
この地域に住んでいるであろう褐色肌の金髪の少女がその正体だった。
「・・・・・・何だろう、これ?」
まだティーンエイジャーにも満たない幼い少女の独特な声が出る。
まじまじと切っ先を眺めるこの子供は偶々アヌビス神を目にして、
好奇心から拾ったのだろう。
本当に何日ぶりか出た外の世界を実感し、アヌビス神にも希望が溢れて来た。
おお、やったぞ!拾った相手が子供というのが癪だが、コイツの心を乗っ取れば・・・!
―――くしゅん!
可愛らしい音に思わず間が抜けてしまったが、アヌビス神には関係ない。
少女は濡れた体を震わせて、さっさと帰ろうと足を動かした。
切っ先を置いて―――・・・。
何ぃいいい!?心が乗っ取れない、だとォ・・・!?
あっ、ちょっと待って行かないで置いてなかいでぇえええ!!!
アヌビス神の悲痛な叫びが届いたのか、少女は一瞬立ち止まって此方に振り返る。
其処には小さな錆をつけた切っ先しかない。
少女はうーんと首を傾げた後、「何かに役に立つかも!」と持ち帰った。
何故心が乗っ取れないのか疑問だが、結果オーライという形で一旦落ち着くことにした。
***
アヌビス神は拾い主の少女に小さな机の上に置かれた状態であったが、
この家で過ごして中はどういう状態か、今まで起こった光景ですぐ理解した。
少女・は叔父に引き取られ、この家にはその叔父と少女の二人しかいないのだが、
酒に溺れ、ロクに働かずにいるその男はまだ幼い姪っ子を仕事場へ行かせている。
その金を酒に変えているからか、の服装はみすぼらしい。
叔父が暴力を振るっているのもあって、少女は抵抗できずにいる。
体に鞭を叩かれたようなボロボロの姿で、
夜な夜な啜り泣きしながらシーツに包まっていたのを何度も見ている。
まさに、『力のない者』の悲惨な実態だ。
が外出している間に部屋に入って来た叔父の精神を乗っ取り、その家を後にした。
***
ようやくカイロに、館に着いた。しかし、肝心の主人の姿がない。
嗚呼、なんということだ・・・!まさか、そんな、DIO様が敗北するなど・・・!
いるはずの門番の姿がなく、中がひどい有様になっていることに嫌な予感はしていたが、
あの圧倒的な強さを誇るあの男が・・・!
館の中にはSPW財団の人間で溢れており、DIOは勿論、ダービー弟やヴァニラ・アイス、
ケニーG、ヌケサクもいなかった。
そのDIOを倒したのが、空条承太郎だった。
自分だけでなく、DIOまであの力をも、破ったという。それは完全なる敗北という事実。
今この場に財団の人間を皆殺しにすべきだと考えたが、
忠誠を誓ったカリスマある主人がいない今、それを成して何が残る・・・・・・!?
もし、他に館の住人が生き残っていたとしても、その答えは多分、見つからない。
恩義の者がいなくなり、再び孤独と化したアヌビス神は行く当てもなく、
ただ、その場を後にした。これであの博物館に戻ることはないだろう。
ふと、脳裏に過ったのは、光に反射してキラキラと光る金髪の少女だった。
***
仕事場から帰ると、叔父の姿はなかった。
本来大人がやるべき力仕事を無理やり任され、そのお金を酒に使われ、
挙句の果てに暴力で解決しようとする大っ嫌いな男がいないだけで安堵する。
酒に潰れて、二度と帰って来ませんように―――・・・。
そんな願いは虚しく、玄関のドアが開かれたことで見事に打ち砕かれた。
「・・・。」
「お・・・おかえり、なさい・・・。」
叔父は無言で此方を一見すると、のそのそと冷蔵庫の中身を物色し始めた。
今殆ど食料がなくなっているから料理できるものはない。
こういうのは金出せって包丁に手を伸ばすに・・・・・・・・・え、包丁?
「叔父さん・・・料理できるの?」
一日中だらけて家事すらやらないこの男が台所に立つなんて、
一体どういう風の吹き回しだ?
の言葉に叔父はもごもごと口を歪めて、「できた試しはない。」と返しながら
何処で買ったのか分からない小魚を捌いた。とても不安でしかない。
テーブルに出されたのは、ただ塩で味付けして焼いた魚とパン。
かなり質素なものだが、叔父自ら二人の分まで用意するなんて、
今までのことを思い返すと、とても考えられない。
不思議なものを見るように固まるをよそに、叔父は黙々と平らげた。
「食べないのか?」と問われ、ようやく食事に手をつけた。
お世辞にも美味いとは言えないが、今回食べたものが、とても美味しく感じた。
なんだろう・・・この感じ・・・・・・。
「どうした。眠れないのか?」
絶対行くはずのない叔父の部屋に来たを、男は嫌な顔せず迎え入れた。
少女はこくりと唾を呑み込むと、震える口を開かせた。
「おじさんは・・・・・・一体だれ・・・?」
の言葉に、叔父の目が大きく見開かれる。
「叔父さんは・・・いつもお酒飲んで、わたしをいじめる・・・。
そんな・・・・・・優しい人じゃないよ!」
親代わりである身内であれば、あんまりな言葉だが、この男に至って例外である。
叔父は静かにを見ていたが、フーッと深く息を吐いた。
はビクリと肩を震わせる。
「フッ・・・承太郎の時といいお前といい、何故こうも子供が絡んで来るのだ・・・。」
「ジョータロー?」
「こっちの話だ。我が名はアヌビス神。今お前の叔父の体を借りている。
この切っ先に覚えがあるか?」
「それ!こないだ川で拾った!」
「それが本体だ。」
「・・・えええええ―――!!?」
に全てを話した。今秘密することは意味ないと思ったからだ。
スタンドを始めとした濃い内容は少女からすれば全く訳のわからない内容だろう。
スタンド像はスタンド使いでしか見れないと知って、はちょっとガッカリしている。
「ワンちゃん顔かどうか見たかったなあ。」
「アヌビス神だ。おれを畜生と同じにするんじゃない。」
「ワンちゃん・・・。」
「しつこいな!」
やっぱり話すんじゃあなかった。子供は本当に面倒だ。
さっさとこの家を出て、新たな持ち主を見つけるんだ。
「ねえーアヌビス。」
「誰が呼び捨てしていいと言ったんだ。アヌビス様でいいぞ。」
「アヌビスさんは何でこっちに戻ってきたの?」
「さっ・・・!?ま、まあいい。逆に訊くが、何故お前はそう思う?」
「うーん・・・スタンドって今日初めて知ったからよくわかんないけど、
アヌビスさん誇り高そうだし、そんな人にずっと憑りつくように思えないもん。」
「(なっ・・・何なんだこの娘は・・・!)」
とても子供とは思えない言葉で、そう返されるとは当然思っていなかった。
実の両親もいない、叔父に虐待されているその環境で得たからなのか。
大人でもない小さな娘が自分を理解してくれるなんて・・・・・・。
スタンドを持っていないだけの子供がどうして自分をこう乱すのか―――。
「アヌビスさ―――ん!寝ちゃった?」
「・・・おれに睡眠の必要はない。」
「あ、起きてた。」
ペタペタと子供特有の手で顔を触ってくる。
鬱陶しいなと軽く手で払った時、痛いほどの視線を感じた。
視界に映るがまじまじと目を輝かせて顔を覗き込んでいる。
何なんだ一体・・・?
「それがアヌビスさんのいうスタンド像!?本当にワンちゃんだぁ―――!」
は?と間の抜けた声を漏らし、ふと視線を下降すると、
さっきまで憑りついていた叔父が体を折り畳むようにベッドの上に伏せている。
・・・・・・待て、それじゃあ、この子が見ているのって・・・・・・!!
『スタンド像が見えるだとォオオオ―――!!?』
アヌビス神の叫びは当然、普通の人に聞こえるはずもない。
目の前に浮かぶ半獣半人の姿にはキャッキャッと楽しそうに足を弾ませた。
聞こえないはずの無邪気な声
(それで何で戻って来たの?)
(別に何でもいいだろう)
(ええ〜教えてよ〜。おせーて、おせーて!)
(・・・・・・おれを拾い上げてくれたのがお前だからだ。一応恩義があ・・・)
(じゃあ一緒に暮らそう!叔父さんのいる毎日と比べたら全然いいもん!)
(待て!暮らすとは一度も言ってない!)