*夢主がH×Hの世界へトリップ
*名前変換なし
またいつものかとため息ついた。慣れとはこわい。
起きたらイタリアの街並みから廃虚ビルの森ってどうなんだ、落差が激しすぎるでしょ。
周りを見つつピーターを発現した。近くに生き物はいない。
わかってはいたが小さな動物の反応すらないと安心感がない。とりあえず歩こう。
この地帯を抜け出し、人に会えることを信じて―――そう思っていた時期もありました。
「おいコラ待てや!逃げるんじゃねえ!」
後ろからそんな罵声が続きますけども、私が挨拶がてらに片手をあげたら攻撃してきた貴方にも
非があると思いませんか?それでハイそうですかと素直に止まる人がいるとでも?
「くそっ・・・―――・・・あの女早いぞ―」
「お前が遅いだけね」
「んだとコラ―――」
私を追いかけていた二人が言い合っている。それでも足を止めない。
あの人たち只者じゃない・・・スタンド使いか?
すると別の方角から足音が現れた。
「何やってんの?女の子の尻追いかけるのが趣味だっけ?」
「てめえ・・・ケンカ売ってんのか?」
二人よりも若そうな男だ。この口ぶりからして仲間だろう。ああ、面倒な。
ため息ついた矢先、目の先にキラリと何かが光る。
それが何なのか考える前に、それに触れてはいけない気がして地面を強く蹴った。
跳躍して廃ビルの屋上まで到達すると待ち構えていた和風な少女が飛んできた。
「初めてだよ、あれにすぐ気づかれるなんてさ」
「『そうかい』」
数粒の種を彼女に向かって投げるとすぐメキメキと成長していく植物の蔓は少女を拘束した。
目を見開く少女をよそにもう一度強く脚に力を入れて前方の廃ビルに移動しようとした―――
その手前で別の蔓を斜め前に建つ廃ビルに放つ。
勢いと共に空を切って移動していく様はターザンかスパイダーマンを思い出す。
「勘のいい奴だ!オレの”円”に入る前に方向変えやがった!」
「だからオレに任せろっつっただろ?」
「うるせー!」
ピーターが拾ってきた会話がダイレクトに耳に響く。
円とはどういう意味かわからないが、さっきの嫌な感じは間違っていなかったようだ。
人が来るのを分かるのはいいが、状況は悪い方向に進むばかりだ。
これではさっきと全く変わらないではないか。いい加減ここを脱したい。
「(あれは・・・!?)」
やや古びたバイクが置かれてある。僅かな期待を胸に駆け寄る。
ガソリンはあまり残っていないが、ここから遠く離れられるならそれで十分。
他人のを勝手に拝借するのは気が進めないが状況が状況だ。波紋で動かせないだろうか?
「随分慌てた客人だな」
馬鹿な・・・私は今もピーターの能力を使っている。
追ってきている彼らに気を配りながらここには誰にもいないことを確認している・・・・・・
何故音を探知していなかった!?
「そう怖い顔をするな。フィンたちは金ヅルが来たと騒いでいたが・・・・・・
大方迷い込んだだけなのだろう?」
ああ、なるほど、そういうことね・・・イタリアはいつからこんな風になってしまったのか・・・・・・。
私そんなになめられる風態なの?頭を抱える私にチャリンと何かを投げ渡された。
「バイクの鍵だ。それは此間の仕事でとったものだ。返す心配はしなくていい」
「・・・『ありがとう』」
何の仕事なのかは聞かぬが仏だ。こんなにもあっさりと言われて逆に怖いが礼を言うに越したことはない。
「行く前に一つ教えてくれ。ここに間違って迷い込んだとしても野良猫か一般人だろう。
例え力のあるやつがうっかりなんてあるか?本当に運がないのかもしれないが・・・」
「『そうかもね・・・』」
今すぐエンジンをかけて離れるべきだ。頭では分かっているのに身体がいうことをきかない。
DIOやディアボロといった予測できない何かを感じた。
「あいつらは生半可の持ち主じゃない。
まあ、それぞれ苦手なものはあるが、それを抜きにしても誰一人も攻撃を加えないどころか
危険を何度も回避し尚且つ体力は残っている・・・・・・」
震える手を叱咤して勢いよく鍵穴に差し込んだ。
「最初と先程の声はどれも別人で偽物くさい・・・お前の本当の声はどうやったら聴ける?」
「『それができたら』『苦労していないッ!』」
どうやって抜け出せたかは覚えていない。ここから早く離れるべきだと本能を優先した。
吹かれる風に当たっていくと徐々に冷静になって再びピーターの能力を発動した。
意外にも追手は来なかった。だがここがイタリアなら、組織の一チームなら油断はできない。
ディアボロがいなくなったとはいえ、組織について詳しくない私にはなんともいえないが、
近くに知人がいないのが悔やまれる。とにかく今は一刻も早くジョルノたちと合流すべきだ。
黒髪の女が去っていったのを見つめながら、もう一度頭の中を整理した。
常人の肉眼ではとらえられないスピードのフィンクスとフェイタンを最後まで撒いた足の速さ。
マチの念糸の罠、ノブナガの円を回避した察知能力。植物の種の成長を促せるものとは別の能力。
他人の声を出す―――まるで自分の代わりとして用いてるように。
「それができたら苦労しない、か・・・・・・」
自分たちが利用できそうならと様子を見ていたが、それとはまた別の意味で興味を持つようになっていた。
幾度かの闘いをくぐり抜けてきた武人でありながら、未知との遭遇に警戒心を浮き彫りにしてくる。
あの時だけ女性らしさを垣間見た。彼女の声が一体どういうものか知りたい。
フィンクスたちに言い訳を考えながらまた逢えることを心待ちするのだった。
2020.01.24