薄々わかってはいたが、あの多くの死体を天井から釣り上げたのは
このエディ・グルースキンであると判明した。
作業場で一人ここで待つようにと言われ、暇つぶしに窓の中を覗いた時、
患者の首に縄をかけて吊し上げていたのを偶然見てしまった。
あれが花嫁たちの成れの果て。あの数をここまで一人あの男がやってきたのか。
ただ殺されて放置されるの方がまだマシかもしれない。
「どうしたんだいDarling,さっきから上の空だが・・・」
ミシンから響く独特な音が止み、神妙な顔つきで此方を見る。
ボーッとしていたは我に返り、なんでもないと首を振った。
機嫌を損ねてしまったのかとチラリと彼を見る。
表情からして、気に障ることには入っていないようで、再び作業に戻っていた。
縫う音にうまく紛れるように、静かに息を吐いた。
「今どうしても仕上げなくちゃならないんでね。見ているだけじゃ退屈だろう」
「そんなことないです。今も真剣に作ってますし、逆に私がいたらお邪魔では・・・?」
「ああ、気を遣わせるつもりじゃないんだ。君はここにいてくれ。君がいるといつもより捗るんだ」
こんな状況下でなければ、世の女性はときめいただろうに。
適度に繰り返されるミシンの音がリズムよく響く。
やることがないはグルースキンの作業から、死体が吊るされている方へ目を向ける。
いつか、自分もあの花嫁たちの仲間入りしてしまうんだろうか。
よくないことを思っている内に瞼が重くなり、ちょっとだけ、と自分に言い聞かせて瞼を下ろした。
***
遠くから鼻歌が聞こえる。最近よく聞くあの歌だ。
次に、自分の頬に別の熱を感じる。
心地よい微睡みから徐々に意識が浮上していき、後から自分を見つめる熱い視線を感じた。
睡魔とは別の意味で瞼を開けたくないが、意を決してそろりと上げる。
予想通り、新郎が視界に飛び込んでくる。
作業中に寝てしまったにも関わらず、グルースキンは愛しい人を見るような眼差しで
の頬を撫でている。
(断りなく手を握ったりされて何度注意直らなかった為、言うのを放棄した)
「おはようDarling.君が起きるのを待っていたよ。こっちにおいで」
そう言ってを立たせ、縦長の鏡の前まで連れていく。
眠気眼に映るあるものを見て、彼女の脳は覚醒し、表情は恐怖に変わった。
「綺麗だろう?是非、君にも見せたくてね。
本当はすぐにでも起こしたかったが、気持ちよさそうに寝ている君も中々愛らしかったんでね」
結婚式には、特に新婦には必要なベール。
その下はカジュアルな服装といった不釣り合いな姿だが、
グルースキンは渾身の出来だとかなり満足げだった。
は鏡の中で遠くに映るウエディングドレスを見る。
元々、結婚願望がない彼女には本来幸せの象徴であろうそれが、
奈落へ突き落とすものに思えてならなかった。
2018/03/25