会って間もない青年に突然言われた言葉に、思わず瞬きした。
「・・・ごめん。何だって?」
「君はスイクンに選ばれたトレーナーなんだ、って言ったんだ。」
数分前―――。
タンバシティの街の北外れに、『やけた塔』から姿を消したスイクンというポケモンを発見した。
一歩近づくが、スイクンは水上を走って一目散に逃げ出したのだ。
後からスイクンを追うミナキがやって来るなり、
「君に勝ってわたしもスイクンにトレーナーとして認めてもらう。」いきなりポケモンバトルを仕掛けて来たが、
私の勝利に終わって今に至るわけだ。
「スイクンは滅多に人前には姿を現さないんだ。二度も君の前で露わにするなんて偶然とは思えない!」
「へえ・・・。」
「トレーナーであるだけでなく、きっと君の何かに惹かれたのだろう。」
「何だそれ。」
「さて、そろそろスイクンを追わなくてはいけない。また会おう!!」
爽やかに去った青年の後ろ姿を横目に、思わず息を吐いた。
「本当に好きなんだなあ・・・スイクンが。」
私はこの世界に来て、まだポケモンについて詳しくない。伝説のポケモンだってそうだ。
ミナキは自分のことのように目を輝かせて、スイクンについて熱心に語ってくれたが、正直、興味がない。
「(そういえばあの赤髪の少年も・・・・・・『伝説のポケモンを捕まえて強く見せる気だろ?』
―――なんて言ってたな・・・)」
でもあのポケモンは人目見て、今まで会った中でもどこかに惹かれていた。
毛並みとか、瞳とかキレイだったし・・・他にいるキレイなポケモンと比べると何か違うんだよな。
「何かに惹かれたって・・・・・・一体何なんだよそれ・・・。」
考えてもキリがないので、まずミカンの元へ薬を届けようとアサギシティまで海面を横切った。
次のジムリーダーはその彼女であるのだが、噂ではかなりの強敵らしい。大丈夫かな。
***
ヘマした。(ジム戦のことじゃなくて・・・)
ポケモンセンターがある森の中を歩いていると突然大雨が降り出したのだ。
天気予報の言っていた話と全く違う!・・・なんて愚痴っても雨が止む気配はない。
水にぬれてしまっては大変なので、いつも一緒に歩いているヒューノ(バクフーン)をボールに戻した。
「雨ひっどいなあ・・・。」
ポツリと言葉をこぼすも、激しい大雨の音で遮られてしまう。
ここで雨宿りどころか、一夜を過ごすことになりそうだ。
「何か食べるものないかな。」リュックの中を探っていると、心臓をわし掴みされたような痛覚が来た。
目眩がしたと思えば次の瞬間、自分の体が地面に倒れていた。(しかも目の前に血が飛び散っている・・・)
「(くそっ・・・こんな時に限って発作かよ・・・)」
今更『死』なんて怖くない。いつ死んだっておかしくない状態なのだから。
だけどせめて・・・世界を見回った後に死にたかったなあ・・・。
『死ぬな―――娘よ・・・。』
脳内に響く透き通った声。男なのか女なのか区別できなかったが・・・・・・これは幻聴か?
『お前はまだ生きなくてはならない。生きるのだ―――。』
その声の後から徐々に痛みが引いて来て、心臓の鼓動も正常に音を刻み始める。
これは・・・夢なのかな・・・・・・。こんな調子で病気も治ればいいのに―――・・・
「・・・・・・・・・あれ?」
気付けば雨は止んでいて、ボールの中で大人しくしていたはずの仲間達が不安な表情で私を見下ろしていた。
血を吐いていたはずなのに、その血痕はどこにも見当たらなかった。・・・あれ?どういうこと?
「ちょっと待て・・・一体どこからどこまでが夢だったんだ?」
私が頭を抱える中、ヒューノが私の肩に何かが付いているのを指摘する。紫色の毛だ。
このパーティーの中に紫の毛をしてる子はいない。だとすると―――
「そういえばスイクンの髪の毛っぽい所・・・何か紫だったような・・・・・・まさかね。」
知らず知らずに接触