*名前変換なし 死にたい。 ただ、それだけが唯一の願いであり、それだけが『此処』にいる理由である。 異常な物品・現象・存在を秘密裏に確保、収容、保護するSCP財団。 世界の安全を脅かすそれらを人々の目から遠ざけてきた。 人類を守るとか壮大なことを言っているが、私にはどうでもいいことだ。 そのSCPに接触すれば死の確率は高い。だからこのクラスを所望した。 『D-111131、D-6745、D-25458、清掃配置につけ。』 アナウンスが流れると、事前に指示された通りの体勢で清掃が始まった。 この時間は何度やってもいやな緊張感が流れる。 早く終わらせたい、早く出たいと誰もが思うだろうが、彼女―D-111131にその感情はなかった。 此方に背を向けるSCP-173。本当の彫刻のようにピタリと動かない。 目をそらせば瞬時に首を折られる。生命力を感じない彫刻は一体何人葬ってきたのか。 ようやく清掃が終わり、彼女の内、二人が軽く胸を撫で下ろした。 そんな気の緩みがSCP-173の行動を許してしまった。 ―――ゴキッ 瞬きして、嫌な音がした。本当に、ほんの一瞬だった。 自分の視界内にSCP-173を含め、不自然な形で倒れている二人の姿が映っていた。 そして、その二人を絞殺した173はD-111131からあと一歩の位置で立っている。 一瞬に死ねるなら、それこそ本望だ。D-111131は両手を広げ、瞼を下ろした。 ドンッ ・・・・・・ドン?おそるおそる瞼を開くと、視界がほぼ黒かった。 分かるのはゴツゴツとしたものが自分の正面に当たっていることだ。 両脇に何かが入れられており、身動きがとれない。そんな中、辛うじて首が動ける。 なんとかこの壁から抜け出そうと顔を上げ、D-111131はぎょっとした。 すぐ目の前に173の顔があったからだ。 そしてまた繰り返す 清掃時間が過ぎても誰一人戻っていないことに気付いた職員はすぐさま要請を頼んだ。 部隊が用心深くコンテナに入った時、二人のDクラスは死んでおり、 残りのDクラスはSCP-173に羽交い絞めされていた。 彼女を173から引きはがしたが、D-111131はまだ生きていた。 瞼を閉じていなかったが、文字通り眼をむいたまま気絶していた。 これといった目立った外傷もなく、体調も良好である。 だが、D-111131が生還していることに解せぬことがいくつかある。 目を閉じていないとはいえど、白目をむいてしまっている時点で注視が出来なくなっている。 D-111131は他のDクラスの人間とほぼ同レベルの体力で素早く動けるわけでもない。 今までSCP-173が人間を含む生物全てを敵対して、 ここまで接近しておいて負傷させなかった例は一度もなかった。 ・・・・・・・・・ 彼女がSCP-173のコンテナ清掃に参加するのは今回が初めてではない。 何回か回数を重ねており、その内、何度か同じDクラスが不意をついて 首を折られる事態が起きたが、D-111131は現に生存している。 ここまで生き延びていることにも驚きだが、 任務当初からあの異常な落ち着きはエージェントクラスにも値するといっていい。 彼女にSCP-173についてどう思っているか幾つか質問したが、 どの解答にも「別に」「どうでもいい」と無感情なものばかりだったが、 ただ一つ、「今回も死ねなかった」と心底残念に言っていた。かなり奇妙である。 彼女が何らかの影響とは考えられない。念のため精神鑑定を行って貰った方がよさそうだ。 今回SCP-173が起こしたことを踏まえ、まだ解明していない謎があるのは間違いない。 もう少し調査する必要がありそうだ。 *** 後から気付いたのだが、もしかしたらSCP-173は彼女に抱き着こうとスキンシップをとったのでは? ・・・・・・・・・いや、ないな。そうであるなら何人か生き残れたはずだ。 きっと疲れてるんだな・・・早く報告書を書いて休もう。 2016/11/06 この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンスに基づき作成されています。 SCP-173 - 彫刻 - オリジナル 著者: Lt Masipag URL: http://scp-jp.wikidot.com/scp-173 作成年: 2008年7月26日