志村晃/合石岳/三隅林道
数週間前/10時57分22秒
「見ない間に随分と変わってしまったな。」
「そういう晃じいは元気そうでよかった〜。」
多聞と同様、孫のように可愛がっていたと27年ぶりに再会した。
30年近く経っているのに関わらず、は少女のように若々しい姿だった。
まだ幼かった彼女の自慢の黒い髪はなく、白髪へ変わっていた。
「草雲といい、お前まで・・・・・・。」
「・・・ごめんなさい、心配ばかりかけて・・・・・・。」
彼女らしくない弱弱しい声で謝り、首を曲げる。
そんなつもりで言った訳ではなかった。
本来なら、の父、草雲の葬式にも参列したかったが、
妻子が眠るこの地を離れずにいた。
は決して、顔を見せなかった志村を咎めようとはしなかった。
大切な人を亡くした気持ちは、も同じであった。
「竹内は・・・・・・多聞は元気か?」
「うん。今では城聖大学で教授をやってるんだよ。
民俗学以外にもオカルト類にも精通しててさ。」
「それもお前の悪影響だな。」
「ぐっ・・・事実故、反論できない自分が憎い!」
久しぶりに交わされる他愛ない会話だが、
のその口調や言葉から、まだ子供であるかのように思える。
まるで、その時のまま止まってしまったかのように。
それは何時から?父親が亡くなった時か?
それとも―――。
***
宮田医院からいつも診察を終えて帰宅したは縁側でまったりと寛いでいた。
家にいると何かと冷たい視線を寄越す草子はパートの仕事のため、
遠く離れた町まで行って留守にしている。
叔母がいないこの空間と時間が唯一の安らぎであった。
裸足をブラブラしながら緑茶を飲む。お菓子が欲しいなー。
立ち上がったと同時に視界に何かが横切る。
その影は此方に気付くと、おーい!と手を振った。
なんてグッドタイミング。はそう笑むと手を振り返した。
「聞いて!初めてプレゼントというのをもらった!」
「美耶子ちゃん落ち着いて。お煎餅のどに詰まるよ?
あ、ケルブはりんごね。」
「ん、ありがとう。」
犬の足元にカットされたリンゴが盛り付けられている皿を置くと、
ケルブは美味しそうに頬張った。美耶子は手渡された湯呑にある緑茶で喉を潤す。
ふうと一息ついた所で、美耶子はまた食い入るように顔を近づけた。
「そのプレゼントがこの人形!」
「あ、美耶子ちゃんだ。」
美耶子の言う友達の春海が作ったという可愛らしいビーズ人形をしげしげと眺める。
実際会ったことはないが、きっと手芸が得意な子なのだろう。
「うん、そっくりで可愛い。」
「えっ・・・!?」
「このお人形が。」
「・・・あ・・・・・・。」
「本人には敵わないけどね☆」
からかわれていると悟った美耶子はバカ、との腕を小突いた。
は苦笑いを浮かべて「ごめん、ごめん。」と美耶子の頭を撫でた。
さらりと綺麗な黒髪が手の中に滑る。
「髪サラサラ〜☆いいな〜私も若い頃に戻りたい。」
「だってサラサラしてるし、綺麗だよ。色なんか関係ない。」
「・・・・・・ありがとう、美耶子。」
美耶子は盲目で、小さい頃から不思議な力を持っているらしい。
愛犬のケルブの目を通じて、家族の目をかいくぐって何度も外出している。
後に行われる秘祭の儀式の重要な役割を担う人物であることをは知らない。
神代美耶子の存在に触れてならない暗黙の掟。
この村の中では不思議な雰囲気を持つの人柄に惹かれた美耶子は、
こうして何度も彼女の元へ来るようにまで至った。
大人のはずなのに、まるで自分と年の変わらない子供。
春海に次ぐ数少ない友人を危険に晒す訳にはいかない。
「さってと!今日は何する?」
「都会に住んでた頃の話!」
「おや、そんなんでいいの?」
「またオカルト話だったらいや。」
「私、そんなに喋ってたかね・・・?」
どうか、この楽しい時間を奪わないで。
秘密の友達