ひょんなことからサイバトロンと関わったことがきっかけでデストロンに人質として拉致された。
だが相手は要求する前に基地を襲撃され、正義軍としてはかなり強引なやり方で救出され、
いつもの生活を送る―――はずだった。
「あのさ・・・。」
《あ?》
《何だよ。》
「何でここにいるの?」
自分の目の前にいるデストロン軍のフレンジ―とランブル。
間接的ではあるが、を拉致したコンドルという鳥型のトランスフォーマーと同じ
カセットロンというのもあり、いくら人間とほぼ同じ大きさだからといって警戒しないはずがない。
この間は彼らに誘拐されたばかりだというのに何故また懲りずに来たのか。
《何でってそりゃあ・・・。》
《暇ができたから遊びに来てやったんだぜ。お前、その仕事ってやつないんだろ?》
「さっきその仕事から帰って来たばかりなんだけどな。」
彼らは遠い国境を跨いで来ている。
あっちは多分、昼間なのだろうが生憎こちらはもうすぐ寝る時間帯なのだ。
今日も残業をやってクタクタで、明日も朝から仕事があるというのに・・・!
ぐぬぬぬと顔をしかめ、生温い風が吹き出す方へ視線を向けて、更に疲れが溜まった。
「また窓が・・・・・・此間換えたばっかなのに・・・!」
《ああ、鍵かかってたから壊したぜ》
「君達は窓割って家に帰る習慣でもあるの!?」
《あるわけねーだろ。自動で開くんだしさ。》
ああ、そうかよ。は思わず頭を抱えた。
いつも、こうだ。どうしてよりによって自分が退勤するタイミングで家にやって来るんだ?
大体予想はつく。二人がゲームしているのを邪魔せず、
ただ屋根の上から監視しているあの拉致実行犯が知らせているに違いない。
そして、そいつは今も向かい側の一戸建ての屋根の上で此方を見張っている。
決まった時間にコンドルが出迎え、フレンジーとランブルは基地へ戻る。
だったら最初から連れ戻せよ。は憎たらしく目を光らせるコンドルを睨んだ。
それが一定に続いて、ストレスはマッハで蓄積していくばかり。いい加減にしてほしい。
「あのさぁ…!」
《ん?》
「何でいつも私ん家に来るの?ゲームならあっちのゲームセンターとかでやればいいのに、
わざわざ手間のかかることして意味あるの?
毎日窓割られて大家さんに言い訳考えるのもう無理なんですけど!」
真夜中だというのを忘れてマシンガントークするを見て、二人はぽかんとコントローラから手を放した。
お互いに顔を見合わせ、何故かうーんと首を捻る。
《何でって言われても・・・。》
《来てえから来てるだけだしな。》
「は・・・え?り、理由があって来たんじゃなくて・・・?」
《えー。理由がねえと来ちゃいけねえのかよ。人間ってめんどくせえな。》
《ゲームなんて外出なくたって基地でも出来るし。》
《人間はそんな好きじゃねえけど、とやるのは面白いもんな。》
嘘ついてる様子もなく、
当たり前のように言うフレンジーとランブルに、言い返す言葉が見つからない。
てっきりサイバトロンを出し抜く作戦だとか、悪い方しか考えていなかったのに。
《ていうかそれ聞くの今更じゃね?》
「・・・だって君達、デストロンじゃん。」
思えば誘拐された当初も、この空気に呑まれてずっと彼らのペースだ。
ゲームをやり出したのも、彼らが言い出しっぺだ。
人間は脆いだの、何だのと散々言いながら、
その人間と輪になってゲームに夢中になっていたのもこの二人。
相手が相手だし、余計なこと言って寿命を縮めるわけにいかなかったから、
ずっと心の奥にしまい込んでいた。
が大人しくなったのを機に、フレンジーが珍しく動揺した様子で頭を掻いた。
《そういうお前こそ、サイバトロンじゃねえんだろ?》
「ああ、デストロンでもないし、入る気もないよ。」
《入れとは言わねえよ。基地にいてほしいけどさ。》
《でも俺達の大きさじゃ合わないし、下手したら潰れちまうしよー。》
「・・・そこまで気遣ってくれるとは思わなかった。」
《そういうお前こそ、何で文句垂れながら俺達を追い出さねえんだよ。》
「そりゃあ・・・―――自分の命が大事だもん。」
好意的な言葉を聞いて、すんなり心を変えるではない。
彼らは地球外生命体。その内のサイバトロンはエネルギーを奪おうとする
デストロンを撃退してくれるが、皆が動けば動く程、建物などの被害は大きくなる。
本人は不本意だろうが、こちら側としてはかなり迷惑である。
デストロンの相手はサイバトロンに任せるに限るが、もうこれ以上彼らに関わりたくないし、
勝手に仲間扱いされたくない。決して、嫌いだってわけじゃあない。
「別に、君達のことは嫌いじゃないよ?
でもね、世間的にデストロンとつるんでるって勘違いされたくないんだよ。
共犯者にされたくないし。」
《嫌いじゃないって割に容赦ないなー。》
《まあ、それが普通だろうな。》
「当たり前だよ。ていうか来てほしくないんだよ。
君たちの他にもうるさい訪問者がたまに来るしさー・・・。」
《何だよー。イカレサウンドはよくて俺達はダメってないだろー!》
《あいつなんかより腕あるぞ!》
「来るのブロードキャストだけじゃないんだけどね・・・
サイバトロンにだって来てほしくないんだよ!
でも話聞かないし・・・爆音のせいで何度怒られたことか・・・!」
《じゃあイカレサウンドを面会拒否しろよー!》
《俺達はあいつと違って爆音流さねえぞ!地震は起こせるけどな。》
「君達も来ないでほしい対象だって言わなかった?」
結局、今日は喋るだけ喋って二人はいつものように帰っていった。
もう一生来なくていいと念じながら。その思いが通じたのか、暫く二人の姿を見なくなった。
代わりにあのコンドルから謎のトランクケースを貰った。
中身は札束だった。しかも日本円。正確に数えてはいないが、ざっと百万はある。
一体どこから・・・?てかどうやって用意したの?
なんて聞けるはずもなく、銀行を襲われたというニュースは流れていなかったものの、
使うのが怖いのでそのまま放置している。
私はああ言ったけど、いつかまた来るだろうな。
イカレサウンド(やべ、移った)達は相変わらず来た。この暇人共め。
このまま奴らに調子に乗らせるわけにはいかない。
名残惜しいけど次のボーナスまで引っ越しの手続きをしなきゃな・・・内密に。
悪の軍団って何だっけ?
2016/08/22