違うのは色だけじゃなかった
ビークルモードのバンブルに乗せて貰ってた中、突然空襲が起きた。
流石のバンブルもこの不意打ちにはうまくブレーキがきかず、は外へ投げ出されてしまう。
何で開けちゃうんだよバカ。たまらず毒づく彼女をよそに、金属性の何かでキャッチされた。
サイバトロンの誰かが助けてくれたのだろうか。
眩暈が治まって目を開けた途端、「げっ」と顔を歪めた。
《よお、お気づきか?》
人生で初めて誘拐され、それを命じた張本人であるスタースクリーム(・・・だったはず)。
またも懲りずに連れ去るなんて何を考えているんだ・・・?
《此間コンドルが連れてきたサイバトロンとつるんでる人間だな?》
好きでつるんでる訳じゃない!と反論したい所だが、
ほぼ強引に基地もといアーク内で寝泊まりさせられている時点で否定できない。くそっ。
しかし一日だけ捕虜だった自分を覚えていたのは予想外だ。
時々、中継でサイバトロンとドンパチしている最中に人間はクズだの何だのと罵声していたくせに。
着いた先は海底ではなく、荒野にカモフラージュした臨時基地だった。
最初に誘拐された時もそうだが、堂々と「此処にありますよー。」とガッツリ見せていいものなのか。
相手が人間だからなめきっているのだろうけど・・・・・・。
途中、見た事あるようなデストロンの面々とすれ違いながら、
人間には広すぎるメインルームの床に雑に降ろされた。(それでも自分を握ったままだが)
《サンダークラッカー、こいつを見張っておけ。》
《は?いやいや、お前、その人間は・・・。》
《いいから俺様の言う通りにしろ!そいつには後で聞きたいがあるからな。》
サンダークラッカーと呼ばれた水色の戦闘機に捕虜を押し付けると、
再び戦闘機になってどこかへ飛び去っていった。は重く排気した水色の戦闘機を見上げた。
トランスフォーマーというのはたまに人間臭さを感じる。
此方の視線に気づいたのか、赤い瞳がゆっくりとを見下ろす。
《えっと・・・お前さんは、その・・・。》
「此間、バカ鳥に拉致及び住居破損(ガラス一枚)され、
ほぼ強引に言いくるめられてサイバトロンのところで期間限定で住んでる人間です。」
《お、おう・・・・・・。》
ノンブレスで嫌味全開の自己紹介に思わずたじろいだ。
このような返しが来るなど思っていなかったのだから当然の反応だろう。
《あの時といい、お前さんもついてないな。》
「そうだね・・・別にあんた達と関わりたい気持ちなんてこれっぽちもないのに・・・
こういうのって一番関わりのあるスパイクとかその父親とか狙うんじゃないの・・・?」
《さあ、俺は人間の顔なんて覚えちゃいないからな。》
その時になって自分がバカなことをしてしまったと背筋が凍ったが、
このデストロンの反応を見て少し安堵した。
自分のうっかりで彼らが危険な目に遭うなんて冗談じゃない。
それをサンダークラッカーは何を勘違いしたのか、
《抵抗しなければこっちも何もしないから安心しろ。》何故か労る言葉を送った。
は面食らった表情でサンダークラッカーを凝視した。
「・・・デストロンなのに随分優しいんだね。あいつと同じ顔だけど。」
《スタースクリームは兄弟機だがあっちの方は立場が上だからな。》
「マジかよ。」
あんなのが幹部クラスだなんてデストロン大丈夫か!?と付け足した言葉に、
サンダークラッカーは苦笑いした。
実際、かなりの野心家で幾度も裏切ってはメガトロンの融合カノン砲の餌食になっており、
また姑息な性格ゆえ、ジェットロンだけでなく、他の仲間からも快く思われていない。
それでも指揮官を務められるのは少なくともサウンドウェーブかスタースクリームくらい
しかいないのが現実である。
「あんなのに扱き使われて不満だらけだろうに。」
《そう言うな。実力者なのは確かだぜ。他に代わる奴がいないからな。》
「デストロンも現実社会厳しいんだね。」
人間社会とあんまり変わらないんだなー。
独りで思い耽るをよそに、サンダークラッカーは手元にいる人間に思考を巡らせた。
一応、捕虜の立場であるのに落ち着き様は如何な物か。拉致二度目としても冷静すぎる。
彼女と対面するのは今回が初めてだが、以前、拉致した人間をいたく気に入ったというカセットロンに
映像込みで話を聞かされている。しかも、仲間の目を盗んで時々会いに行ってると言うのだから、
ヒューズが吹っ飛んでいるんじゃないかと疑った。あの寡黙な情報参謀がよく許したもんだ。
サイバトロンに協力している奴らはどうでもいいが、
はその人間と違って協力的ではないくせに同等の扱いをする。
そんな変わり者をカセットロンが妙に懐くのも、何だか分かるような気がする。
《なあ。》
「ん?」
《そろそろ教えてくれないか、あんたの名前。》
「やだ。」
《それは俺がデストロンだからか?》
「サイバトロンも同じだよ。これ以上、覚えられたら生活に支障が出る。
というか忘れてほしい切実に。」
《お前さんを軍のために利用するためじゃない。
まあ・・・勝手に連れて来られて頭にきてるんだろうが・・・純粋に知りたいだけだ。》
「・・・・・・どうして君達はそう言うのか理解できないよホント。」
それは俺だって同じだ―――出かかった言葉を呑み込んだ。
「あのトリコロールと違って話分かりそうだけど絶対バラすなよ!?
サイバトロンの方はもう諦めたけど他のデストロンに言いふらしたら即ッ!
無視を決め込むから。」
《お、おう。(本当は既に知ってるんだが本人には黙っていよう・・・)》
2016/09/26