メガトロンの指示で来たのはいいが、この光景は一体何なんだ?
臨時基地で何体かが作業している中、兄弟機である水色の戦闘機が人間と談笑している。
スタースクリームが捕虜を捕まえたと聞いているが、やけに距離が近くねえか?
ここでようやく水色ことサンダークラッカーと人間が此方に気付いた。
《おいおい、そのちっこいの何だ。》
《人間だ。》
《見りゃあ分かるっての!何でそいつとワイワイくっちゃべってんのか聞きたいんだよ!》
《スタースクリームに見張れって押し付けられたから仕方なくな。》
《その割には楽しそうだったじゃねえか・・・。》
「めちゃくちゃ暇だったしな。」
《お、喋った。》
あ、やべ。
《スタースクリームから聞いたぜ。サイバトロンとつるんでるって。》
「・・・好きでつるんでる訳じゃないんだけど。(嗚呼これさっきも言ったな)」
《家を追い出されて仕方なくそいつらの基地で寝泊りしてるんだとさ。》
「おい、勝手に喋んなよ。」
《本当のことだろ?》
仕方なくと言ってる割に表情からしてそうには見えなかった。
人間も人間で嫌そうな顔をしているが、サンダークラッカーに気を許しているようだ。
デストロンが人間と仲良くしてるとメガトロンが知ったらどんな顔をすることやら。
(それを面白がっている自分がいるのだが)
《サンダークラッカー、俺にそいつよこせよ。》
「絶対引き渡さないでくれサンダークラッカー。」
《だとさ。》
《サンダークラッカーはよくて何で俺がダメなんでぃ!》
「(その横暴な所がだよ!)あー・・・何となく?」
《お前さん、変なところで気ぃ遣ってんな。》
《ああ?どういう意味だ!》とスカイワープは怒鳴った。
《チビ助共には気を許してるっつーのに何で俺だけ・・・》
「はっ・・・!?」
《(やべ!)いやー実はな・・・・・・。》
《サンダークラッカー!見張りはちゃんとやってるか?》
タイミングがいいのか悪いのか、雑用を押し付けた張本人が戻ってきた。
思わず顔を顰めるサンダークラッカーだけでなく、も「げっ」と顔を歪めた。
《スカイワープ、何でお前がここにいるんだ?今日はそういう配置じゃないだろ。》
《メガトロン様の命令でさあ。お前がまたポカやらかしてねえか見て来いってよ。》
《チッ、あの老いぼれめ・・・・・・。》
思いっきり舌打ちしているスタースクリームに、は「うわあ・・・。」と引きつっていた。
間近のサンダークラッカーでさえ頭を抱えた。
何も失敗していないんだ、さっさと帰れとスカイワープを追い出そうしている。
《まだそいつと喋ってねえぞ!》といちゃもんつけるスカイワープだが、
何故そこで自分を引き出すんだと悪態つきながらも、内心ちょっと焦ってもいた。
サイバトロン内ではロクでもない奴として印象的な男だが、時には勘が鋭い所もある。
それに加え弱みに付け込むクズっぷりはデストロンらしいといえばそうなのだが。
これ以上、自分の身を危険に晒すわけにはいかない。・・・は?余裕だろって?
私はスパイクと違って超人類じゃねえんだよッ!!!
《ああ、そうだった・・・その人間に聴きたいことがあるんだ。
テメェも下がれ、サンダークラッカー。》
《えっ、あ・・・ああ、わかった。》
「(うあああああああ私の唯一の良心がぁあああ!!!)」
一人で顔を青くするに対し、内心《すまん》と若干罪悪感を露わにしているサンダークラッカーだが
未だにブツブツと文句垂れるスカイワープを引きずってその場を後にした。
こうなることは分かってはいたが、いざ離れるとなるとやっぱり心細い。
よりによってコイツと二人っきりになるのだがら尚更だ。
あくまで平静を装う彼女を前に、スタースクリームはニヒルな笑みを浮かべた。
《さて・・・お前をわざわざ連れてきたのには理由がある。
最近、カセットロンのチビ共が任務外にコソコソと外出してるみたいでな・・・
まるで誰かに会いに行ってるらしいじゃねえか。》
「はあ・・・。(何でそんな見え見えな遠回しなことを・・・・・・)」
《その相手がもし人間―――なんてことがあったらデストロンの面汚しってモンだ。》
本当にそう思ってるんだろうか。相手が相手だから何だか胡散臭い。
(というか本気で許せないと思ってんなら本人達に言えよな)
芝居かかったような口の巧さは敵ながらあっぱれだ。
《チビ共が会っている相手が人間だとしたら誰と思う?》
「さあ・・・トランスフォーマーの友好関係事情というのには疎いんで。」
あくまで白を切り続ける彼女に、流石のスタースクリームも痺れを切らし、
さっきまで余裕な表情とは一変させた。
《とぼけたって無駄だぜ。お前がフレンジーとランブルと会ってるのは分かってんだ!》
「っ、仮にそうだとして・・・アンタに何の得がある?
(うげえええっ!もげる!もげるぅううう!)」
スタースクリーム本人は手加減しているつもりなのだろうが、人間と比べたらその差は歴然だ。
忘れられたら困るが、は一応、普通の人間である。
これならボロを出すだろうと、奴の表情に笑みが戻った。
《おっと、つい力んじまった。》と言うが、悪びれてないのが見え見えだ。
《俺はな、お前達の今後の為に提案があるんだ。正直に言った方が身のためだぜ?
もし下手なマネをしたら『デストロンに協力してる』なんてサイバトロンや他の
人間共に誤解を招くことになるぞ?》
コイツにとっちゃ関係ないことなのによくも抜け抜けと―――。
「それを言ったところで皆が本気で信じると思うのか?」と言ってやりたいが、
今の私は確実に命を握られている。
今まで生意気に口応えしてきたが、これは本気でヤバいかもしれない。
《もう一度聴くぜ。お前はカセットロンとうがあっ!》
「(死ぬ死ぬ死ぬぅううう―――!!!)」
突然何かに当たったような音が聞こえた時にはぐらりとスタースクリームの体が傾いた。
このままでは、運が悪ければスタースクリームの下敷きにされかねない。
こんな奴と心中(※まだ死んでいない)するなんてご免だ!!!
彼女の切実な心の叫びが届いたのか、スタースクリームが床に伏す直前に何者かが服を引っ張った。
誰かが助けてくれたというのも驚きだが、一番の理由はその助けた相手がコンドルにあった。
ある意味デストロンで最初に遭遇したトランスフォーマーであり、
最悪なファーストコンタクトでしかなかったのもあって、はコンドルを嫌悪していた。
床の上にそっと下ろされ、此方を見下ろす鳥を見た。間近で見るコンドルは結構デカかった。
「何で・・・?いや、ホントに何でお前が?」
疑問符を浮かべる彼女に、答えは出なかった。
まあ、デストロンに期待なんてしちゃ意味ないよね。
「あ〜〜〜まあ、でも君が来なかったらここに足ついてなかったかもな・・・
一応ありがとう。これは自分なりのお礼ってことで。」
以前グリムロックがエネルギー補給をせず、
花や果物から生成した明るいピンクのエネルゴン(小型)を差し出した。
一瞬こちらをじっと見たが、意外にも素直にそのエネルゴンを口にした。
どうやらお気に召したようだ。
「はあ、此処から帰るのにどのくらいかかるんだか・・・ん?」
裾を引っ張られ、後ろへ振り向く。いるのはコンドルと未だに倒れているスタースクリームのみ。
コンドルは長い嘴を自分の背中の方へ指した。
じっと背中を見て「乗れと?」おそるおそる聞いてみた。
コンドルはゆっくり頷いた。一体どういう風の吹き回しだ?
だが人間の足よりもこの機械鳥がどれだけ早いか身に染みている。
関わりたくないと豪語する私だが、ここはありがたく乗せて頂こう。
「・・・いや、待てよ?これってデストロンの本拠地へまた連行されるんじゃ―――!!」
乗ってしまったのが後の祭り。飛んでしまったら下りる隙などなかった。
着いた先はこれまた意外にもアーク号の前。
一仕事終えたといった様子で再び空へ舞った。
ポカンと呆気にとられる彼女をよそに、サイバトロンは《無事かー!》と駆け寄った。
とにかく、更に肩身が狭くなることはなくなったから良しとしよう。
でも顔見知りが増えてしまった・・・
《コンドル、ゴ苦労》
スタースクリームが余計なことをしてくれたおかげで、
基地はサイバトロンの猛攻撃を食らうハメになってしまい、
メガトロンの指示で例の人質を解放せざるを得なかった。
先程、人質が無事戻ってきたと連絡が入り、ようやく誤解がとけた所でコンボイ達は去っていった。
今日はこれといった戦闘をしていないのにも関わらず、精神的にも疲れた気分だ。
航空参謀の独断行動(裏切り行為とも入る)、人の話を聞かないオイル気の多すぎる正義軍と名乗る奴ら。
そのコンボが運悪くぶつかったんだと思うとサウンドウェーブは重く排気した。
スタースクリームは弱みを握ってカセットロンを扱き使おうと企んでいたらしいが、
それも失敗に終わり、今はメガトロンの折檻を受けている。
今回ばかりは注意を散漫したフレンジー達を強く指摘しなくてはならない。
一方、コンドルはがくれたピンクのエネルゴンを思い出していた。
人間があんな美味しいものを造るとは、彼女は逸材の人物じゃないかと改め始めた。
同時に、あのエネルゴンを毎日摂取しているサイバトロン―特にダイノボットが妬ましい。
だが、デストロンでの家に出入りしている二人ではなく自分が最初にそれを摂取したというのは
悪い気分じゃなかった。
この味をしっかりとブレインサーキットに刻み込んだ後、サウンドウェーブの胸の中へ収納するのだった。
2016/11/22