*生理ネタ サイバトロン基地に仮住まいして早くも半年。 すぐにここから出たいという気持ちとは裏腹に、現実は非情だ。 ただで住ませるわけにはいかず、リペアの作業工程を覚えたり、手伝ったりしている。 サイバトロンの中には当然、人間を快く思わないトランスフォーマーもいるが、 顔を合わす数を重ねれば重ねるほど、険悪な態度はとらなくなった。 それはそれで嬉しいものだが、このままでは絆されるのも時間の問題だ。 しかし、『今』はそう思っていられない。 十代半ばを過ぎてから来るようになった『月経』―――簡単にいえば『生理』。 学生時代の頃は痛みも殆どなく、気にもならなかったが、成人してからは重くなった。 特に初日がかなりキツイ。この痛みをあいつらにも分けてやりたいくらいだ。 薬を呑んでしばらく横になっているが、痛みは未だ引きそうにない。 月にしか来ないのが幸いだが、キツイものはキツイ。というか辛い。 痛みのせいで眠くもならないからどうしようもなかった。はあ、と大きくため息ついた。 そんな自分をあざ笑うかのようにズシン、とこちらに向かって音が大きくなるにつれ、 私はひくり、と口元を引きつらせた。 *** 普段、サイバトロンはデストロンとの攻防や基地周辺の見回りで殆どが出払っている。 特にダイノボットは大きな作戦がない限り、アーク号の留守を任されている。 そんな中、グリムロックがイライラと尻尾を忙しなく床を叩いていた。 《うわ〜グリムロックまただよ。》 《どうしたんだい?これまた機嫌が悪そうだね。》 《あ、そういえばマイスター副官は知らないんだっけ?》 ダイノボットは普通のトランスフォーマーとは違い、自由意志が強い。 最初は暴走を起こし、何とかホイルジャックの製作したメモリーヘアバンドで 知能は上昇したものの、性格にも難がある。 スパイク達がいない日にはに彼らの面倒をみてやってほしいと頼んでいる。 本人は仕方ないといった顔だったが、生みの親の一人でもあるホイルジャックに 教育などの無茶ぶりをされた時は露骨に嫌な顔をされた。 それでも真面目に考えて接してくれるのが彼女のいい所である。 それが功を奏したのか、グリムロックを主にダイノボットはを気に入ったらしい。 なんでも、「がんばったらご褒美にエネルゴンをくれる」というのが一番に来たようだ。 なんとも単純な話だが、皆から見ても微笑ましい光景である。 けれど今朝からと会っておらず、遊んでもらっていないのもあって、 ひどく唸っている。 《なるほど、その時ちょうど仕事でいなかったからね。それでは?》 《部屋にこもってます。『生理』が重いからしばらく休むって。  オイラもよく分からないけど。》 ああ、なるほど。 マイスターは地球の文化に興味を持っており、様々な知識を得ていたため、 がその痛みに応えていたのを思い出して納得した。 それは人間の女性が大人へなっていくものであり、子を生す大事なものだ。 我々トランスフォーマーにはないものであって、それを神秘性に感じた。 それを当然、グリムロックは知らない。 いつグリムロックが彼女の部屋に押しかけてもおかしくない状況に、 マイスターはある手に出た。 *** 生理痛に苦しむのは何年も経っても慣れない。 だが、ここに来てから生理痛になる度に考える。 自分が生理痛でどうしようもない時、グリムロックたちはどうしているのか。 ここには他のトランスフォーマーがいるし、たまにだがスパイク達だって来る。 自分が心配しなくたって代わりはいくらでもいる。 そんな杞憂をぶち壊すかの如く、床が振動する。 それも徐々に音も加えて大きくなる。すこぶる嫌な予感がする・・・・・・。 《俺グリムロック、を労りにきた!》 《グリムロック、女性の部屋に入る際にはまず―――・・・遅かったか。》 すまない、。 しかし、マイスターの申し訳ない声は今の彼女には聞こえちゃいない。 ダイナミックにドアを押し倒したグリムロックしか見えていなかった。 先ほどまでベッドで俯せていたは顔面蒼白で上半身を上げたまま固まっている。 今、頭の中には『痛い』を押しのけ、困惑しか残っていない。 彼女が動かないをよそに、グリムロックはなるべく小さく頭を低くして腕を伸ばした。 グリムロックの呼びかけに、はようやく我に返った。 「え、これ・・・・・・。」 細い手にちょこんとのっている一輪の花。 グリムロックの大きな体のせいか、より可愛く見える。 《グリムロック、マイスターから聞いた。、すごく痛がってる。  が痛がってるの壊したいけど、壊せない。  グリムロック、と遊べないのはいやだ。でも、が痛がってるの、もっといやだ。  早く元気になるおまじない、この花にかけた!だから、やる!》 そう言ってずいっと花を手向けた。 よく見ると、グリムロックの足が土で汚れている。 わざわざこの為に摘みにいったのか・・・あのグリムロックが。 そう実感すると、何だか嬉しかった。 汚れていた感情が徐々に浄化されていく気分だ。 「ありがとう。痛み治まったら、また遊ぼうか。」 《ほんとう?俺、グリムロック、待ってる!》 生理痛は嫌だが、グリムロックの優しさを受け入れるのは悪くない。 優しいおまじない 「だけど、おまじないとか可愛すぎやしないか?」 《そうかな?私だったら熱調節して温かくさせてやれるけど、  グリムロックにできそうなことを考慮したら、それが一番じゃないかってね。  ちなみに効果はあったかい?》 「・・・結構きいた。」 2017/1/13