時間は止まらず、どんどん過ぎていく。
長かった学校生活や派遣勤務は今思い返すとそれほど長く感じなかったし、
少なからず苦痛を覚えたアークでの居候生活もあっという間に終わっていた。
歳をとって考え方が変わったからだろうか。
あの時自分の嫌なことばかり浮き彫りになっていたが、なんだかんだで皆と楽しんでいたと思い出す。
時間を大切に使わなければと改めるようになったのはそれからだ。
十月三十一日。今日もお菓子を貰いに彼らがやって来る。



「ー!トリックオアトリートー!」

「俺グリムロック、オ菓子!クレナキャイタズラスル!」

「はいはい、どーぞ」



やって来る面子は変わったが、何年経ってもこのイベントに参加する者は現れる。
やって来る人間はダニエルだけなので本来なら製菓品を一つだけで済むはずだが、ダイノボットは例外だ。
リーダーであるグリムロックが味を覚えてしまったのだから当然他のダイノボットも俺たちにもくれと言ってくる。
大きな子供を相手している気分だとつくづく思う。



「あ、これ今流行りの!」

「俺グリムロック知らない、ダニエルそれなんだ?うまいのか?」

「ああ、美味いよ。虫歯にならないようにしろよ」

「うん、ありがとう!」

「ダニエル、まだ答え聞いてない!」



早くお菓子を食べたいダニエルはグリムロックと共に帰っていった。
二人の姿を見届けて家の中に入ろうとした途端クラクションが鳴った。
振り返ると何故かサイバトロン現司令官がいる。



「・・・何してんだアンタ、ダニエルたちならもう行ったぞ」

「そうか。だが用があって来たのは君の方なんだ」

「ロディマスもハロウィンに?」

「いけないか?」



地球に滞在する期間も長ければ、その星の生活に自然と浸透するのは珍しくない。
その行事に参加するのは地球の人々にとって喜ばしいことだが、
一番忙しくその余裕もない本人がそれを口にするなんて思ってもいなかった。



「いけないことでもなければおかしくもないよ・・・てことはちゃんと仕事は終わってるんだね?」

「・・・ああ、もちろん」

「おい」

「本当だ!この日のために溜まっていた仕事を全部片付けたんだ!」



拳を作ってくわっと証言する男に思わずたじろいだ。



「ど、どれだけ楽しみにしてんだよ・・・ならここに来ることをシティコマンダーには伝えてるよね?」

「いや、伝えてない」

「ダメじゃねえかッ!」



以前、司令官になって間もない頃、その重責に嫌気を差したロディマスはマトリクスを外して席を空けていたことがある。
当然彼を捜し出したウルトラマグナスはの所に来ていないかと真っ先にやってきた。
新しい住居にも関わらず、何のための個人情報なんだと諦めがついたのも同時。
アポ電もなくトレーラーが突然家の前にいたのを想像してみろ、かなり怖い。



「今すぐ伝えろロディマス。会話できなくてもデータ通信できるだろ?即刻やるんだ」

「大袈裟だな君は。後でいいだろ」

「そういう所が大甘なんだよ!あのシティコマンダーはいい意味でも悪い意味でも行動が早い、特にアンタたち関連にはな。
 今回仕事を終わらせてるからいいが、もし仕事すっぽかして勝手に外出してみろ。最悪総動員で駆けつける」

「う、確かにあいつならやりかねん」



の必死な説得にやっと応じてくれたロディマスはへメッセージを送った。
それを見届けてようやく緊張から解放された。



「よっぽど応えたんだな」

「ああ、ガラス窓破られるよりマシだが、グリムロックよりでかいトランスフォーマーはまだ慣れない・・・
 見馴れているロディマスには関係ないことだろうけど」

「そりゃあからすれば皆大きいだろう」



「それとこれとは別だ」と口を尖らせる。昔と比べて我々に対して少し寛大になったが、距離感は未だ変わらない。
まだ暴走族が抜け切れていない頃は何も思わなかったが、司令官として事の重大さを身に染みてから、
その距離感にやきもきしている。



「なあ、君が我々に協力してくれるが未だに間を空けている。
 けれど露骨な嫌悪感を出すわけでもない、グリムロックたちにはちゃんと応じている」

「うん」

「だが君から歩み寄ろうとはしない」

「・・・そうだ」

「・・・ずっと無理して付き合っているというなら私からもう近づかせないよう言いつける。
 私も緊急時以外はなるべく寄らない」

「・・・突然どうしたんだよ、そんな今更」

「ああ、わかってる、今にして言うことじゃないくらい・・・安易に触れるべきではないと」



それでも言葉にしないと気がすまなかった。ロディマスがそう言うとは黙る。
彼が何故その話題を出したのか何となく分かっていた。



「初めて君と出会ったのを覚えてるか?」

「もちろん、あんな派手なカラーリングして手もつけられない問題児、忘れたくても忘れられないよ。
 俺が走りたいんだから走るんだってどーとか」

「それは忘れてくれ」



そう、デストロンとの戦いの真っ最中であろうに自分は自由気ままだった。
サイバトロンの一員であるのを自覚せず、地球の自然や人間にも多く迷惑をかけた。
そんな悪ガキだった自分がダニエルのお目付役に充てられたことが未だに信じられない。
ユニクロンが現れ、ガルバトロンとの戦闘以降も、多くの同胞を喪った。その中にはと交流があった者たちもいた。



「・・・何も言わなかったけどさ、」

「ああ」

「サイバトロンとデストロンがやってきて、勝手に地球で戦い始めて迷惑だ。それは今も思っている」



そういえばマトリクスを投げ出したきっかけも、そんな言葉を大衆に言われたからだったなと思い出す。



「ラチェットやアイアンハイドが死んだと知って、会うサイバトロンたちの数が減っていると分かって、自覚したんだ。
 私に関わるなって言っておいて皆を受け入れていて・・・当たり前だと思っていた光景は、っ・・・必ず、続くものじゃないって」



ポツリ、ポツリと語り出すの目には膜が張っていて、言葉を出す度に涙を落とした。
一度落ちれば涙は止まらない。滅多に人前では感情を出さない彼女の前に膝間付き、そっと体を包んで背中を撫でる。
この時だけ、はロディマスの片手に体を預けた。


言いたいことを全て話し、目元を赤く腫らしてようやく涙は止まった。
ロディマスはを気遣いながらも、彼も自分の気持ちを打ち明けた。



「私も君と同じだ。司令官になって命の重さというのを理解した。今更理解しても、散った仲間は戻って来ない」

「うん・・・」

「私も・・・いや、俺もそのいつかになるかもしれない。そうなる前に、君に自分の気持ちを伝えてかまわないか・・・?」

「・・・いつも勝手に来るくせに、この時だけ許可とるなよ・・・後からやめとけば良かったと思ってもいいなら、聞くよ」



我ながら悪い聞き方をするなと思う。だってこうでもしないと、軽い気持ちだったら後悔しか残らないから。
彼に限ってそれはないと分かっているのに。それでもロディマスは依然として態度を変えなかった。



「俺は本気だ。寿命の長さとか種族なんて関係ない。命に終わりが来ても、思いはと共にありたい。
 一緒に来てくれとは言わない、これからも君に会いに行かせてくれ」



は目を大きい見開かせ、その瞳に手を差し伸べるロディマスを写す。
気持ちに整理つかず、視線を自分の靴に下ろした。



「・・・意外だ、一緒に来てくれって言うかと」

「いきなり住む環境を変えるなんて無理だろう?お前のことだからゲームできる環境じゃなきゃ困るしな」

「・・・よく分かってるじゃん・・・本当にそれでいいの?」

「それも含めてが好きなんだ、グリムロックのように駄々こねるほど、もう子供じゃない」

「・・・グリムロックには言ってやるなよ、拗ねるから」



何度か言葉を交わして、ようやく整理がついた。
ロディマスは―――否、彼らは人間と変わらない。相手を気遣う心がある。
彼らの時間は長くても、戦いが続いている以上、いつ途切れてもおかしくない。
自分も向き合わなければ失礼だ。



「司令官になっても、特に昔のあんたは無鉄砲すぎる。よく構ってくる物好きだと思ってた」

「物好きは余計だ」

「こっちは何を言わないのにそういう時に限って変に優しくしてさ・・・・・・好きになっちゃったじゃないか」

「責任はとる」



淡白したように聞こえるが、元からそのつもりでいたという自信を感じる。
こちらを見るロディマスの目は愛しい人を見るもので、嬉しくも恥ずかしい。



「ちゃんと仕事が終わってからでいいからさ・・・その時に恋人らしいことしよう」



こういう時気の利いたことが返せない。
自分が言ったことに顔が熱くなり、誤魔化すように差し伸べる手の上に自分の手を重ねた。
ロディマスは驚いた表情をするも、の言葉はしっかりと伝わるものだったともう片方の腕で彼女を抱き寄せるであった

2020/02/10