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*名前変換なし それは約5年前―――。 4月に入り、新たに学校に通う人、初めて会社につく人で、期待と不安が入り混じった スタートとなる月。3年生になった雨取千佳は入学して来た1年生を見て、 当時そうであった自分を思い返した。お姉さんとして頑張らなくちゃ、と。 いつもの帰り道。友達がまだ学校に用事があるため、先に帰っててと促されて今に至る。 ポカポカ陽気で今の服装がちょうどいい。この先公園を通るのだが、其方の方から声が聞こえる。 近づくとその声がハッキリと聞こえる。涙声であるが、それに怒りも混じっていた。
「お腹すきすぎて死んじゃう~~~!飯~!飯~!!」
ベンチの上で体を揺らす10代半ばの少年が飯だの、食わせろと訴えていた。 (時折、隊長のバカー!禿げろー!という悪口まで言ってる) ガタガタと振動して今にもベンチから転げ落ちそうだ。 傍から見ればとても元気のように思える。しかし少年の目の下には隈ができて、顔色からも生気が薄い。 まだ幼い千佳であるが、このまま放っておけば本当に死んでしまうのではないかと思った瞬間、 急いで帰宅して家にある食べ物を探して、それを彼の元まで走って行った。 「あの、ど・・・・・・どうぞ。」 走ってきたせいで自分の息切れがうるさい。 千佳の声にようやく我に返った少年は小さなパンが入った市販の袋とその少女を凝視した。 *** 「ふぅううう~~~!生き返った―――!」 あっという間に平らげた少年は満足気に頷いて、小型の牛乳パックの中身も美味しく頂いた。 「うちにあるの、これくらいしかなくて・・・・・・足りなかったらごめんなさい。」 「いやいや何言ってるの!?餓死寸前だった俺にご飯を恵んでくれただけですごく満たされたよ! 誰か知らないけどホントありがとね~!」 これだけでは足りないと千佳の頭をくしゃくしゃと撫でた。 髪が乱れるのを若干気にしつつ、 撫でるのをやめない少年をじっと見て気になることをぶつけた。 「お兄さんは・・・・・・ホームレスの人なんですか?」 「ブフォッ!俺そんなみすぼらしいカッコしてる!?」 「あっ、ご、ごめんなさい!そういう意味じゃなくて・・・・・・。」 「そ、そんな謝らないでよ。まあ、10日間くらい飲めず食わずだったし、 住む家もないからホームレスも同然かー・・・・・・。」 徐々に元気のないか細い声になっていき、がくんと顔を下に向けた。 もしかしたら自分は、一番してはいけないことをしたのでは・・・・・・。 「・・・ごめんなさい。」 「んー何でそう謝るかなー?寧ろ君には感謝してるんだよ? ベンチでうだうだしてる俺のことを無視しないでくれてさー。 普通なら近づきたくないでしょ?君、勇気ありすぎー。」 「本当に・・・死んじゃうじゃないかと思って・・・。」 「そ、そんなガチで心配してくれたのか・・・うーん。でも次からは気を付けた方がいいよ。 俺みたいに危ないヤツに捕まっちゃったら君、食べられちゃうよ?」 至近距離で目を細める少年に対し、千佳はぱちぱちと瞬きを繰り返す。 「でもお兄さん、危なく・・・ないですよ?」 真顔で答える千佳に、少年はポカンと口を開けたまま固まった。 この時の彼女は深く考えることなく、本当にそう思ったことを言っただけだ。 予想していなかった反応に、少年は腹を抱えて大笑いした。 「くっくっくっ・・・あーゴメンゴメン!真面目な顔でキッパリ言われたの初めてだよ~。」 「・・・?」 「ふふふっ。あ、まだ自己紹介してなかったね。俺は・・・・・・ロス。 ロスお兄ちゃんとでも呼んでくれたまえ!」 「あ、あまとり・・・雨取千佳、です。」 「ええと、チカ、が名前で良いのかな?」 「あ、はい。」 「チカ、チカ・・・・・・よし、君は今日からチーちゃんだ!」 「は、はい!」 きっと愛称なのだろう。ビシッと命名されたからか、体まで反応してしまう。 それが面白いのか、ロスという少年はケラケラと笑う。 これまでの様子からして、彼は外国から来たんじゃないかと考える。 「そういえばちーちゃん、君、一人?何してたの?」 「学校です。」 「えっ、ちょっと待って。チーちゃんいくつ?」 「は、八さい、です。」 「あっ、そうだったの!あーその年でもう学校に行くのね、ココって。 通りで、しっかりしてるな~。」 うんうんと頷くロスに、千佳は頬を赤らめた。 「チカちゃん!」 顔を上げるといつも一緒にいる友達が此方に駆け寄った。 お友達?と聞くロスに千佳は小さく頷いた。 千佳の友人はロスを見るなり、笑顔を引っ込めた。 「チカちゃん、その人・・・・・・。」 「ロスさん。」 「お兄ちゃんでいいのに~。」 「さっき知り合ったの。」 「えっ!」 千佳がそう言うや否や、友人は彼女の手を取って、「遅くなるから帰ろう。」 ベンチから引き離した。正確にいえばこの少年から、だが。 「うん、チーちゃんは本当にいい子だ。いいお友達がいる。」 「ロス、さん?」 「行こうチカちゃん!」 「あっ、待って!」 追いかける千佳はチラリと後ろを見た。ロスはニコリと笑んで手を振った。 気を悪くしてないとわかると、千佳も手を大きく振った。 *** 「チカちゃんダメだよ。知らない人といちゃダメだって。」 「でも、ロスさんはちゃんと知り合ったよ?」 なんともズレた言葉に友人は思わず顔をしかめた。 「あの人、最近このあたりにうろついてるってお母さんに聞いたの。 何かあったらじゃ遅いんだよ。」 「でも、」 「チカちゃん、『変なもの』に追われてるんでしょ? あたし、チカちゃんに何かあったら嫌だ・・・・・・。」 涙ぐむ友人の顔を見て、千佳は言葉を出すのをやめた。 だけど、あの人が悪い人だと、千佳はそう思えなかった。 *** 徐々に沈む太陽を背に、赤くなった空を見上げて少年は独り言ちた。 「いや~いい子だったなー。玄界も悪くないんじゃあないの?」 ロスと偽名を名乗った少年はベンチから腰を上げ、うんと伸びをした。 人がいないのをいいことに、彼は元の姿に戻った。 人間にあるはずのない頭に生える二本の角。そして闇に溶け込むマントを羽織っている。 朝までの時間をどう過ごそうか考える彼の後ろの茂みから微かな音を立てた。 「・・・・・・心配すんなよ。お前らの邪魔はしないから」 千佳のいう『変な生物』―――それは後に侵略する『近界民』。 それを呼び寄せる門を開く小型トリオン兵『ラッド』は少年の言葉を理解したのか、 茂みの奥へ移動した。
少女と隠密者
*** ロスは偽名なので名前変換に入れてません。